2023年8月に見た映画その2

『高野豆腐店の春』『長崎の郵便配達』『教育と愛国』『氷の微笑』『THE KILLER暗殺者』の5本です。『教育と愛国』は西神ニュータウン9条の会HPに書いたものを再掲します。それ以外は短めでまとめます。

『高野豆腐店の春』

 高野豆腐(こうやとうふ)ではなく、高野(たかの)という名前の豆腐屋、そこの看板娘の名前が春であるという映画です。

 広島県尾道の商店街から少し外れたところにある、年老いた父と出戻りの娘がやっている豆腐屋を中心とした下町の人情噺です。藤竜也麻生久美子でいい感じでした。周りの人間も心あったかい人々です。

 父と娘は何歳ぐらいの想定だろうと思いながら見ていました。父は70前後、娘は40代というところでしょうか。二人ともそれぞれに恋心が芽生える相手がいるというのがうれしい映画でした。

 もうちょっとていねいな脚本にして、落ち着いて作れば賞をもらえるような感じになる、と私は思いました。

『長崎の郵便配達』

 市民映画劇場の例会作品ですが、私はもう一つという評価です。

 ドキュメンタリーなのですが、ちょっとややこしい作り方です。

 イギリスの作家、ピーター・タウンゼンドの娘がイザベル・タウンゼンドが父の著書『THE POSTMAN OF NAGASAKI』を手掛かりに長崎を尋ねるというものです。

 その本はピーターと長崎の被爆者である谷口稜嘩の心の交流を基に書かれた原爆、その被害者たちを描いたもののようです。

 映画はイザベルを通して彼女の感動が語られるのですが、私には原爆の恐ろしさ、被爆者の悲惨な状況が伝わってきませんでした。 

『教育と愛国』

 西神ニュータウン9条の会HPの9月号に書きました。

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戦争は教室から始まる、といいます

 先月に続いて教育にかかわるドキュメンタリーですが、内容は正反対でした。

『世界のはしっこ、小さな教室』は教師の情熱が描かれましたが、この映画には教師と教育を圧し潰そうとする日本の現実がありました。

これは昨年に公開されたものですが、軍事費を2倍にして軍事大国になろうとする現在の岸田政権にいたる政治と社会の変化、この十数年ほどの教育現場の危機を描いたものでした。

 中学や高校の歴史教科書に焦点を当てて、アジア太平洋戦争における日本軍の加害(従軍慰安婦や、南京大虐殺など)や沖縄戦の実態等の記述を大きく歪め、さまざまな形で教育に介入していく歴史修正主義勢力、権力の実態が描かれていました。

 なによりも憲法や以前の教育基本法が禁じてきた政治や権力者の教育への介入が、現在では露骨なほどに行われていました。

教育現場は歪められた 

 最初に出てくるのは道徳の教科書でした。朝の挨拶の仕方が書かれてあります。「おはようございます」は言ってから頭を下げるのか、頭を下げながら言うのかが、問われていました。

 馬鹿馬鹿しいですが、第1安倍内閣の時に教育基本法が改悪され、道徳の授業がつくられました。

 こんな挨拶の仕方よりも「人間と嘘」を題材として、国会での嘘答弁は道徳的にどう考えるのか、を取り上げてほしいものだと思いました。

 歴史教科書については、加害責任を修正させようとする急先鋒の「新しい歴史教科書をつくる会」や日本会議等が、安倍政権の下で教科書会社と教育現場に圧力を掛けました。

 それまで東京都23区の学校で採用される等、現場の信頼の厚かった大手出版社は、修正に応じなかったために、採用が激減して、ついには倒産しました。

 歴史修正主義の重鎮である歴史学者伊藤隆(東大名誉教授)は「歴史に学ぶ必要がない」と言います。

 従軍慰安婦沖縄戦を授業として取り上げた大阪の教師には、教育委員会内外からものすごい圧力、批判があることが描かれます。維新の吉村知事や松井市長も露骨に介入しました。

教育は社会の根本

 タイトルは「教育と愛国」ですが、日本の文化や伝統、国を愛することが問われるものではありません。愛国を装った政治的圧力です。 

 「政治的中立」の強要は、若い教師に「選挙に行っていいのか」と言わせるほどひどいといいます。10代の有権者投票率が非常に低く、若い層で現政権支持が多いというのも、その影響です。

 教育の目的を「国や権力者に従う人間をつくる」にしようとしている、本気でその危惧を感じさせる映画でした。

氷の微笑

 1992年制作のシャロン・ストーンマイケル・ダグラスの主演の再上映です。昔見たかもしれませんが、シャロン・ストーンをもう一度見たいと思ってみました。マイケル・ダグラスが段々とシャロンに引き込まれていくのは面白かったですね。 

THE KILLER暗殺者』

 韓国映画です。米国映画のようにたくさん人が死ぬ映画を平気でつくるようになってきました。それだけ幅が出来てきたと思えばいいのかもしれません。

 元殺し屋(秘密であり、すでに引退しているようで、お金はしこたま持っている)が、妻の友人の子ども、女子高生をしばらくの間預かることになったのに、この子が、人身売買組織に誘拐されてしまって、それを取り返すために、そこに乗り込んでいくって、彼女を取り返すという話。

 まあ笑いも入れながら、一般社会とは違う、映画的な話でした。