「水の眠り灰の夢」(文藝春秋、桐野夏生)

 舞台を1963年にしているのがいい。高度経済成長が始まった時代の感じが出ている。彼女は1951年生まれで、そういう時代を感覚で知っているからであろうか。
 殺人事件を軸に、世間の表や裏を追いかける展開はミステリーの系列に分類されるのだろうが、風俗の描写が話を豊かにしている。もちろん、語り口がいいのは、この作家の筆力だろう。
 少しだけストーリーを紹介すると、連続爆発魔<草加次郎>を追う「トップ屋」が女子高生殺人事件に巻き込まれる。彼がその両方を追いかけるうちに、まったく別のような事件が絡み合いながら、近づいてくる。そして大団円となる。
 いや、面白かった。彼女の出世作となった「顔に降りかかる雨」(江戸川乱歩賞)についでよかった。