都市計画支部正月号

百年先は見えるのか
百年前に
 一九〇一年の報知新聞に百年後に実現する二三の項目が出されています。そのうち「無線電信・電話の発達」「空中軍艦、空中砲台」「電気の世界」「鉄道の速力、東京―神戸二時間半」「市街地の空中・地下鉄道」「自動車の世」は完全に的中しています。
 まったく外れているのは「人と獣の自由会話」ぐらいで、残りも半分以上は実現している、と言って良いでしょう。「蚊、蚤の滅亡」「暑さ寒さ知らず」は、エアコンの普及、衛生管理の徹底で、ほぼ実現しています。「植物と電気」「琵琶湖の水で発電し全国に輸送」とか「身長一八〇cm」「医術の進歩、内科はほとんど外科手術に」などは、それに近づいているといえるでしょう。
 「七日間で世界一周、男女を問わず一回以上は世界旅行」は可能ですが、私たちには出来ないし、知能の発達で「幼稚園の廃止、全員大学へ」も、知能はそれほど変わっていませんが、現象として高等教育は広がっています。「サハラ砂漠を緑化、日本、中国、アフリカに文明が発達」はアフリカが明らかに遅れています。
 およそ自然科学系は予測があたっています(しかし「暴風を防ぐ」は無力で、気象現象は予測も非常に困難)が、社会科学系は見通しどおりにはいかない、という感じです。
歴史的に見る
 映画『孫文―一〇〇年先を見た男』がありました。中身は「百年先」とは関係ありません。清朝打倒をめざして、何度も失敗した孫文の心意気をあらわした言葉です。彼は約百年前に辛亥革命を成功させますが、そこから先、おそらく現在の中国をイメージすることはなかったと思います。
 それでは胡錦濤・中国国家主席は、現在から百年後をどう見ているでしょう。ノーベル平和賞にあれほど反発する独裁的な政治体制は改まっているのでしょうか。生活レベルが高く(ある統計では一人当りのGDPが三〇〇〇㌦以上に)なれば民主化運動が起きるといわれています。現在、中国は日本の一〇分の一、三五〇〇㌦です。世界一の経済発展を続けていますから、マルクスの言う「生産力に応じた社会的生産諸関係」の発展が、中国の政治体制に変化をもたらすのは、いわば必然です。
 中国だけではなく世界各地で「歴史の峠」「中世封建社会から近代資本主義の転換期に匹敵」「第三次産業革命」等といわれる、産業、経済、政治、文化など人間社会のあらゆる面で変化が生じ、そのうえ「地球温暖化」と「生物多様性」という自然環境も人間の諸活動の影響で激変しています。
 神戸にいても、そのような大きな変化の時代であることは感じます。
 この変化を歴史的に理解することが必要です。長期的にこれまでの構造的変化をつかみ、これからの方向を見る「歴史観」を養い、それに対応した社会づくりをめざすということでしょうか。
市長も行財政改革二〇一五の記者会見で「今後の神戸をどうつくっていくのか、あるいは大きく言えば日本をどうつくっていくのかということにもなっていきますが、そうした視点でもって我々は自治体の中で先導してこういう取り組みを今までもやってきたという自負を持っています」と言っています。
わがまちは世界へ続く
 脱工業社会とグローバリズムは、これまでの経験では推し量れない社会経済的な変化を生み出しています。国際的な動きで言えば「ベルリンの壁崩壊」に象徴される東西冷戦構造の崩壊と中南米諸国が「アメリカの裏庭」から、ベネズエラチャベス政権に代表される「国民に顔を向けた政治」への転換があります。それによってG8がG20に作り変えられています。
 日本は「一億総中流意識」から格差拡大社会になっています。神戸では阪神淡路大震災を経験し「協働と参画」が強調される市政運営となっています。
 都市計画の職場では、これまで都市計画事業の中心であった土地区画整理事業、街路事業、再開発事業がその座を譲ろうとしています。年末に出された都市計画マスタープラン(二〇二五年目標)、都市計画道路整備方針、密集市街地再生方針、土地利用誘導方針は、今後の仕事の方向を指し示すものと思います。この案はさらに検討されていきますが、現時点での最大の欠点は「わかりやすい都市計画」を空文にしているところです。
 上位計画として第五次基本計画策定作業も行われています。それをフレームとして都市をデザイン「思想を具体的な形としてあらわ」していく都市計画は非常に重要です。それは、これまでも進めてきた命と人間らしい暮らしを守る都市基盤整備と建築をさらに充実し、英知を集め人心を惹きつける、魅力的な都市空間「わがまち」を創造することです。
百年の大計
 これまで都市計画は、爆発的な都市化を後追いするように、法律をつくり事業を実施してきました。都市化が収束し人口減少に転じる状況の中で、これからはまちの成長や再生をコントロールする、出来る時代となったと思います。それは同時にこれまでと違う仕事の仕方を考え、市民と協働してまちづくりを進めることが求められています。
真摯に市民の声を聞き、都市計画図をじっくり眺め、都市のツボを押さえ、甲論乙駁であっても当面の課題から飛躍して「百年の大計」でもって都市計画を考えることは、見えない百年先を明るくするように思います。
 いろいろあっても、元気でニコニコやっていきましょう。今年もよろしくお願いします。