「夜夢(よるゆめ)」柴田よしき 詳伝社

 柴田よしきさんは贔屓にしています。女の人の小説はあまり読まない、と思っていました。アガサ・クリスティに始まったぐらいで、宮部みゆき高村薫平岩弓枝向田邦子ぐらいですかね。旭爪あかりの「稲の旋律」はよかった。とそんな程度かな。女流ということで偏見を持っているわけではないが、文体や話の運びになにか読みにくい、という先入観があったかもしれない。
 でもそれは男でも同じで、例えば村上春樹の小説はハナから読まない。読んで嫌いになったということではないのだが、30年以上前に見た映画「風の歌を聴け」を見て、なんとつまらないと思って以来、彼の小説に触れたこともない。
 そうそう田辺聖子の川柳、俳句などのエッセイも好きだ。と色々考えてみると、面白そうな本を探しているうち、女と男の色分けをすると、結果的に男のほうが多くなったというようなことだろう。
 映画評論、映画関係には少ない、科学読み物も少ない。女性の書いたのは高野悦子と浜野幸ぐらいじゃないのかな。あと「ナチスと映画」の飯田道子の本もあった。ドイツの天才女子高生が書いた「シルヴィアの量子力学」もあった。
 話が違う方向に行った。要は女流作家の本は少ないといいたかったのだが、結構ある。しかし私がよく読んだ初期の日本SF作家、池波正太郎藤沢周平佐野洋勝目梓佐々木譲などに比べると、あまり読んでいないな、ということ。
 その少ない女流作家の中で、この柴田よしきさんはすばらしい、といいたかった、のである。
 これは短編連作の「恋愛ホラー」という帯がついている恐怖小説の傾向だが、心霊現象ではないからミステリーの傑作だ。
 「フェアリーリング」が面白い。15年前の殺人事件をあばくのだが表題は地中の栄養分の形に添ってきのこの群れが生える、ことをいう。それを聞いただけで、わかるだろうが、話のもって行き方がいいから面白い。
 「顔」と「願い」は怖い。女の哀れな執念といってしまえばそれまでだが、人の誰もが持っている、望みと違う真理や現実は見たくないという気持ちを誇張して取り出している。
 どれもアイデアがいいというだけではなく、話し方が良い。
 柴田よしきさんが一番いいのは女刑事「村上緑子シリーズ」だ。その壮絶な女ならではの警官人生は、事件を追う謎解きとあわせて、出色の警察小説だ。私は新しいタイプのヒロインだと思う。しかもそれは突飛な人間ではなく、普通の人間が開き直ればそうなる、というリアリティがある。詳しくは新しい小説が出たときに書く。
 もう一つ好きなキャラクターは保父探偵「花咲慎一郎シリーズ」です。彼女は色々な傾向を書き分けしかも力があります。彼女の本は図書館でも結構ありますから、一度手に取ってください。