神戸新聞「大震災再生への視座」3月25日〜4月6日8回

 東日本大震災から1ヶ月を経て、復興をめざして新聞に色々な特集が載り始めました。色々と切り抜いておいているのですが、どう評価するべきか、戸惑っているうちに時間だけが過ぎていきます。
 馬鹿みたいな記事にはすぐに書けるのですが、このシリーズは、8人の人の意見であり、阪神淡路大震災の評価や反省も含んでいますから、まとめてはいえません。
 印象的な言葉を紹介しながら、多少、分析的に私の意見も書いていきます。まず8人の肩書きと名前、タイトルをまとめて書いてみます。
 ①「地域経済」神戸商工会議所会頭 大橋忠晴、②「産業復興」神戸大大学院教授 加護野忠男、③「中小企業」尼崎商工会議所会頭 吉田修、④「地場産業」神戸市産業振興局参事 三谷陽造、⑤「水産振興」兵庫県漁業協同組合連合会会長 山田隆義、⑥「復興資金」同志社大学大学院教授 林敏彦、⑦「復興計画」兵庫県立大学客員教授 神田栄治、⑧「共生経済」経済評論家 内橋克人
中小企業の再生が重要
 これだけを並べてみてすぐにわかることは、被災地の再生には企業活動の再生をどう図るかというのが課題だということです。とりわけ中小企業の再生の重要性が語られます。⑦も市民生活まで踏み込めず産業活動です。内橋さんも「人間復興に悔いを残した阪神・淡路の教訓」といっていますが、市民生活と営業の再建にまでは紙面には出ていません。わずかに⑥で阪神・淡路の反省で「私有財産に公費を投入しない原則が、復興への壁になった」といっています。
 この段階で、しかも限られた紙面ですから全体的な論調はこういうことだろうと思います。その上で共通するキーワードを拾っていきます。
新自由主義のグローバル経済
 ①「日本の製造業の国際競争力が低下してしまう」「もたつけば成長著しいアジアなど新興国に追い抜かれてしまう」②16年前と比べ、あらゆる業界で『選択と集中』が進んだ」③「大企業は・・・安易に海外移転などをせず、地元にとどまる努力をしてほしい」⑧「日本を必要としないグローバル生産体制ができ、ジャパン・アボイド(日本回避)が進む」「世界最適調達が常識となった」
 これらは阪神・淡路の時代よりも著しく進んだグローバルの下での危機をいいますが、日本自体がそれを推し進めた一員だから、自分が困ったときに、それに待ったをかけられるのか、という思いを持ちます。
地場産業の存続こそが大事
①「金融面でここを支えなくてはならない」②阪神淡路の反省から「地場産業への目配りがもっと必要だった」③「約3万2千。東日本大震災に見舞われた東北4県の太平洋岸に本社を置く企業数」「有事のときこそ、社員を守る会社でなければならない」「中小企業なしでは大企業は成り立たない」④「資金繰りと操業場所の確保だ」「行政として最低限のインフラ整備はしたが、商売の支援には限界があった」「神戸とは事情が異なる・・・最初から永久的な施設を考えた方が良いのかもしれない」「中小企業の場合、速やかに支援しないと、仕事がなくなってしまう」⑤「新船の建造も難しそうで、各地から中古船を集めよう」⑦「経済の血液であるお金を循環させるとともに、物流を確保することが大事」「産業復興では周辺部にもきめこまやかな支援が要る」⑧「6次、7次の下請けにはオンリーワン企業も多く、製品の基本性能を左右する技能を担っていた」とかなり具体的に、中小企業や地場産業を守る方策が示されている。
今後の視点
どのような地域に再生するのか、復興計画はこれから議論が始まるのでしょう。このコラムでは十分に明らかにされていませんが、いくつか考えるべき視点が示されています。②「平時の『常識』にとらわれず、できることを迅速に」⑤「世界的な人口増を踏まえ、食の安全保障の観点からも、国は水産業のあり方を示す長期ビジョンを作るべきだ」⑥「直接被害だけで45兆円に上る。今後10年間、復興に毎年5兆円投じたとしても、日本のGDP比1%、十分に耐えられる額だ」「道路や港湾など社会資本の再建は、原形復旧が原則。これも意味がない」。そして財源として「復興消費税を時限的に導入を打ち出す。⑦「行事は過度に自粛しない」「方向性は早く出すべき」「今回は日本の制度を変えるくらいの気概」⑧「食料、エネルギー、介護の自給が今後の社会には欠かせない」「資源が生きない循環する仕組みを作るほかない」
 復興財源に消費税という考え方は、手軽に税を徴収できると考えているのでしょう。しかし、消費税の逆進性だけではなく、その新自由主義的な性格から、いまの日本にうまくいくと思いません。強いものに利益を与え、弱いものから取り立てる消費税は、必然的に滞納が増えます。それはここでも言われている中小企業、地場産業の再生に逆行するからです。
 税は、特に復興に必要な税はお金を持っているところから出していただくようにするのが最も自然です。しかしおそらく、それは階級闘争で勝利するしか、実現できないと思います。