『アパッチ砦の攻防』劇団東京ボォードヴィルショー

 6月19日神戸演劇鑑賞会の6月例会でみた。「2時間笑いっぱなしの喜劇で、久々にお腹いっぱい楽しみました」(京都労演HP)であるかも知れないが、私には残念ながら空疎な笑いでしかなかった。

 何も「武器としての笑い」を求めるものではないが、芝居を見たときは、少しぐらいは「そうだよな」という思いがしたい。それがない。シナリオの三谷幸喜に全面的に責任を押し付けるつもりはないが、やはりこの人とは合わないな、と思う。
 彼の映画(例えば『マジック・アワー』『THE有頂天ホテル』)はだめだった。でも『古畑任三郎』は面白いテレビドラマだし、初期のシナリオである『今夜、宇宙の片隅で』も好きだ。
 言葉のやりとりだけを聞いていると面白いし、嘘に嘘を重ねる綱渡りもいい。あるいはフィリピン女性がはさむ「ことわざ」も微妙にずれていていい。
 だがしかし、まず舞台がだめなのだ。これは私の仕事の所為かもしれないが、それは映画を見るときもそうだが、地形地物、地理、町の配置、あるいは家の間取り等が異常に気になる。
 まずこのマンションは、1億5千万円で買って7千万円で売ったというから、東京であっても高級マンションだろう。駅前とか商店街のマンションではないはずだ。だとしたら、家の窓から喫茶店の看板は見えないだろう。あるいは写真を階下に落としても、そこを車が走るとは思えない。マンションの周囲は高級住宅街で、当然、建物の周囲は芝生か低木の庭があるはずだ。
 といっても「成金」が買うマンションだし、変な隣人もいるから、住環境よりも便利さを追求したマンションかもしれないと、そこは折れてもいい。
 であるがマンションの間取りがおかしい。水周りは同じところにあるべきだと思う。リビングをはさんでキッチンと洗面所、風呂場があるのは不自然だろう。夫婦の寝室と子ども部屋はどこにあるのか、色々頭をひねってみた。
 そういったところから芝居に入り込めなかった。
 そして、それぞれの人が何を考えているのかも、伝わってこなかった。主人公が見栄を張って自分の高級マンションで会う設定は、無理であるからこそ面白いのだが、みんながみんな、見栄を張りながらいい人って言うのも、どうかなと思う。鴨田婦人が後妻でありながら純情そうで不倫というのも、どんな女だ、と思う。
 あるいはビビアンが秋田生まれだというのも、あのことわざは何なんだ、と突っ込みたい。 
 そんなことも含めて、どたばた喜劇なのだ、というのかもしれないが、それは神戸演劇鑑賞会には似合わない。