「エル・スール」神戸演劇鑑賞会

 7月22日に芝居を見た後、親しい友人と飲みながら色々な話をした。
 私の芝居の感想は、九州の人は怒るのではないだろうか、というものである。


 時代は現代の東京から、昭和33年の博多に逃げ帰ってきた男の話だった。昭和33年こそが彼の原点だった、というもの。あの時「もはや戦後ではない」という時期であったかもしれないが、まだ貧しさがあり生活の安定もなかった。赤線が廃止され、人権意識が向上し、そこから高度経済成長に駆け上がった。
 そんなときに西鉄ライオンズの全盛期があった。「神さま仏さま稲尾さま」を先頭に、豊田、中西、大下、仰木といった現在までも伝わる「野武士集団」が「魔術師」三原監督に率いられて、東京の「巨人軍」を打ち破った。
 そんな時代になぜ彼は戻ってきたのか。あるいは、そこから彼はどこまで行ったのかを、この芝居は明確にはしない。それは弱点ではあるが、同時に誰もが、心のライオンズを持っているという、狙いがあるのだろう。
 しかし、それでは現代を切ったことにはならないのではないか。博多に返ってきた男の「特別の事情」を言うべきではないか。それでこそ郷愁のリアリティが出るように思う。
 郷愁を否定をするものでも肯定するものでもないが、これでは「あの頃はよかった」だけになるだけだ。
 黒い霧事件を起こしたライオンズは没落し、まったく別のチームになってが去った。代わりにかつてのライバル、これまた大きく姿を変えたホークスがやってきた。 現在は強いチームだ。
 「昔はよかった」だけでは、ソフトバンク・ホークスを応援する福岡の人々を馬鹿にしただけではないかと思う。