2022年3月に読んだ本その2

3月の残り『喝采藤田宜永』『蟻の木の下で/西東昇』『世界3月号』を書きました。

喝采藤田宜永

 500頁の大部。1971年、浜崎順一郎は31歳の時、父親が遺した探偵事務所を引き継ぐ。時代設定は72年の東京ですが、留守電もファックスも普及していない、もちろんパソコン、携帯もない時代の探偵を描くハードボイルドです。以前に読んだ『タフガイ』の前の作品です。

 藤田宜永さんのファンで結構読んでいますが、これはちょっと冗漫でした。

 娘だと名乗る女から、引退した女優を捜してほしいという依頼が来ます。その元女優はすぐに見つかりますが、浜崎とあった後に殺されます。 

 ここから長い話になります。浜崎は容疑者からは外されいますが、彼は真犯人を見つけるために動き始めます。新聞記者や刑事であった父の知り合いなどを伝手を頼りに関係者に当たり始めます。

 殺された元女優とライバル関係にあった女優、元夫、そして彼女らが取りあった男、彼らと付き合いのあった男と女、どんどん広げていきます。

 でもミステリーですから、どこかで事件の収束に向けて転換していくのですが、その過程を楽しむ小説で、謎解きなどはたいしたことはありません。しかも濡れ場もなく、そういう意味ではハードボイルドタッチでした。

『蟻の木の下で/西東昇』

10回(1964年)江戸川乱歩賞受賞作

 戦後20年近くたって書かれた小説ですが、戦争に行った人々の複雑な思いを強烈に反映させています。   

 真偽のほどはわかりませんがビルマの山奥に人食い蟻がいて、そこに置き去りにされ蟻に食われて死んだと思われていた男が生きていて、日本に帰ってきて復讐するという話です。

 ちょっとホラー気味で、謎解きに重きを置いたものではありません。殺人事件の展開と、それを追っていく人々を描きました。そこに描かれたのは、戦時中の理不尽さと、戦後もそれが是正されたものではないという視点がありました。強い者、要領の良い者が勝ち、利益を得ていく社会を批判していました。

 都内の公園の動物園で、熊の爪で引き裂かれたような惨殺死体が見つかります。側に新興宗教のバッジが落ちていました。殺された男と、それを見つけた男の関係が明らかになっていきますが、発見者の男も殺されます。

 新聞記者に絡むことで話は進展しました。

 小説の現実社会では新興宗教、商社、麻薬密売等が出てきました。その合間に、過去の軍隊時代の話が挿入されます。東南アジアの戦場にいた日本軍が何をやったのか、軍隊内で非人間的な虐め、原住民への虐殺などもありました。

 ミステリーとしては無理な展開もありますが、1960年代の日本が描かれました。

『世界3月号』の気になった論考。

【「赤木ファイル」を読む(上中下)/金平茂紀

上(1月)良心の叫びと「悪」の構造

中(2月)認諾官僚たちに告ぐ。「ふざけるな」

下(3月)公務員個人の責任が問われぬ不条理

 裁判で、赤木さんが自死に至った真相解明を拒否する「認諾」を国はとりました。訴訟は消滅します。[読売]はこれを社説で取り扱っていません。

 佐川宣寿元財務相理財局長個人に対するの訴訟もありますが、国家賠償法が適用されたら「公務員個人の責任はない」(芦別事件)となるようですが、佐川が「財務省内部における自らの地位の保身と歓心を買うという私的な目的」と指摘しています。

片山善博の「日本を診る」148:岸田政権の下でそろりと変わりつつある新型コロナ対策】

 岸田政権発足100日の変化。アベノマスクは布マスクであったので、布マスクは不織布マスクに劣るということを「自粛」していました。それが解禁されたようです。

【メディア批評171(2)危険レベルに入った権力との一体化/神保太郎】

 [産経]のことはもういいが[読売]も元旦インタビューで安倍元首相に台湾有事を語らせ「敵基地攻撃能力」まで踏み込んでいます。

 柳澤協二さん「有事に備えて何をするか、ではなく、有事にしないためにはどうすればいいのか。それが今の課題だ」と明快です。それが9条を持つ国の政府でありメディアであると思います。

 しかし[読売]は逆だし、大阪府と「包括的連携協定」を結び、国でも地方でも権力の「監視役」を放棄しています。