2020年12月に読み終えた本その1

『日曜日の万年筆/池波正太郎』『繚乱/黒川博行』『立川談志まくらコレクション風雲児、落語と現在を切る/立川談志』『刑事群像/香納諒一』とりあえず4冊紹介します。一月分まとめるとあまりに長い文章になるし、遅くなるので、とりあえず、この程度で行きます。

『日曜日の万年筆/池波正太郎

 池波さんの小説は『剣客商売』『仕掛け人・藤枝梅安』シリーズを読みました。『鬼平犯科帳』は読まず嫌いです。火盗改めという権力の暴力装置が気に入らない、と言う程度ですが。

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 エッセイを読むのは初めてです。幅広い蘊蓄を傾けるというよりも、自伝的に日常生活を振り返り、そこで考えた色々なことを書くというものでした。彼の人生を初めて知りました。51話あります。

江戸っ子で、貧しい家庭で小学校を出て、すぐに株屋で働いたというのは、ちょっと驚きでした。その後、色々な職業を経験します。都の職員にもなります。

芝居や映画は好きで、小さい頃から見ているようですが、それでこれだけの仕事を成し遂げる能力を開花させたのはすごいと思いました。小説、戯曲、演出、絵も描くし、舞台装置のスケッチ、平面図も考えるようです。

 たくさんの小説、戯曲を書いていますが、最初は戦後に劇作家としてスタートです。

 色々と気づいたことを紹介します。

 戦時中、通信関係の部門に居て、終戦3日前に知ったと書いてありました。池波さんは一介の兵隊ですが、部署の関係でそんな情報を得たのでしょうが、当然、上官も知っていたし、他部門でも知っていた人は多くいたでしょう。敗戦の日を知っていれば、それを利用して悪いことをした人もいたと思います。

 12月の神戸演劇鑑賞会で見た芝居『私はだれでしょう』で、軍の幹部は終戦のどさくさで軍事物資をくすねた者が相当いたとありますが、軍人魂とはそんなものです。

 日常的なことを書かれていて、ちょっと真似をしてみようと思ったのが食事の記録です。彼は3年日記を使っていて、15年間欠かさず、そこにそれを書き込んでいるようです。

 私も主なおかずぐらいは書き残すことにします。

 小説の書き出しは、ある場面が脳裏に浮かび、それからどんどん話が膨らんでいくようです。最初から全体の構図を決めて書くのではない、ので主人公なり劇中人物が動いて、作者もなぜそういう状況なったのかがだんだんわかってくる、といいます。ですから続きが浮かばないと書けない、と言います。

本当かなと思いますが、芝居なり映画でも、いいなと思うシーンから話をつくることもあるから、彼はそういう書き方をするのか、と思いました。 

『繚乱/黒川博行

 黒川博行の、元大阪府警暴力団担当だった堀内、伊達コンビの活躍するシリーズ、先月読んだ『果鋭』の前作で、飛ぶように話が進むハードボイル、警察を懲戒処分になった元刑事のピカレスク小説です。

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でも彼ら以上に悪いのは、世の中の仕組みをうまく利用し、隠れた犯罪で大儲けをする連中がいて、さらに、それに取りついて甘い汁を吸う、元警察幹部が出てきます。

競売屋に雇われ調査員となった伊達と堀内は、パチンコ屋の債権者、債権額を知ろうと、伝手を手繰って様々な人に会いに行きます。すると裏にあった真相に近づき、過去の犯罪までたどり着きました。そして金の匂いに気づきます。

 パチンコ屋の競売物件を調べるうちに、殺人事件が起きて、その裏には、暴力団と金貸し、警察OBが絡んできました。

OBになっても警察組織は現役警官とも一家意識でつながっていて、彼らは警察が持っている個人情報も利用します。どこまで嘘か真かわかりませんが、ありそうなことです。

大阪弁で、リアルな感じですが、現代社会の悪の大本である資本主義に切り込んでいるかと言えばそうではありません。標的になるのはせいぜい資産が数十億程度の連中で、暴力団も本家ではなく2次団体3次団体です。

立川談志まくらコレクション風雲児、落語と現在を切る/立川談志

 切るというほどたいそうな話をしているわけでもありません。落語のまくらの効能は色々あるでしょうが、立川談志は自己主張をしている割合が多いと思います。本編主題、オチの理解の手助け、落語が描く生活、世間の解説、そういうものは少ないです。

日常的な身の回りのことだけではなく、歴史や哲学的なことも言いますが、政治や社会的な問題になると貧乏人の味方に徹する、ということはしません。そこはビート・タケシに似ていて斜に構えて、平凡な人間の小さな悪を突きます。

この本は1982年~2005年、彼が46才からで、落語に対し自分の考え方「人間の業の肯定」を言っていた時代です。自分の考えが最優先で、師匠の小さんをこき下ろし、志ん朝小三治といった手練れも、嫉妬心からか世間が言うほどじゃないという感じで、あまり評価しません。

自分とは違う落語観でも、落語が本来的に持っている幅ですから、観客が評価すれば良しとすればいいと思います。

『刑事群像/香納諒一

 評価が高い推理作家です。確かに面白い警察ミステリーでした。しかしここに登場する刑事たちはみんな真面目に仕事に取り組んでいます。係長クラスが出世とか上司の評価などを気にするだけです。現場を走り、証拠証言を集めてくる巡査部長の刑事「部長刑事」は、いい人間で能力もある人達でした。

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 それはちょっと嘘くさい。

 最初は、刑事たちの連作短編かと思って借りましたが、違いました。一つの事件を追う話で、警視庁捜査1課強行犯係の2班の刑事たちが登場します。

二人の部長刑事が中心で、そして彼らと同年代の元刑事(負傷してやめた、足手まといになると)彼の警察官としての誠実さも描かれています。

工場地帯の道路のガードレールに女の全裸死体が放置されていました。捜査の手順で被害者の身元を洗い、関係者の証言を取りに行きます。すると以前の事件と絡んでいることがわかり、その時に元刑事が被害者と連絡を取っていたことを知ります。

そして彼も死ぬ、という形で事件は広がります。

密室やアリバイ崩しなどの謎解きはなく、足で事実を拾っていくと、意外なところから人間関係が出てきて、次第に事件の全貌が明らかになる、と言うミステリーでした。

2重3重の犯罪が絡んできますが、犯人像や動機などはオーソドックスでした。文章も読みやすいものです。また読もうと思います。

ミステリーの場合、謎解きや意外な動機と犯人像、あるいはそれらを追っていく警察の動き、警官のキャラクター、心境描写などが面白さの基準になるのだろうと思います。私は、それに加えて、犯人と被害者の階層、職業などが気になります。

 

てふてふ忘年会

12月25日に忘年会をしました。今年は忘年会と名付けた宴会は初めてです。例年なら「10回やった」と自慢しているのですが、コロナ禍でまったく声が上がりません。

その中で、いつもお世話になっているてふてふさんで、三味線の発表会もかねて、少人数で楽しみました。

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発表曲は「ちゃんちきおけさ」「野球拳」「青い山脈」です。みんな我慢して聞いてくれました。ありがとう。

こうやって見ると頭がだいぶ後退しています。本人はそんなに変わっていないと思っていますが、歳月は否応なくもやってくるようです。

でも「歳月を待たせておいて酒を飲む」気概で来年も頑張ります。

新年会したいですね。

2020広島カープを振り返り、2021へ

 今年の状況を確認しながら、来季に向けた希望を見つけていきたいと思います。チームと個人的に期待する選手について書いていきます。

投手陣の崩壊

 佐々岡監督の1年目でしたが非常に残念な結果でした。5256125位です。

出だしの6月だけが2位で、後は最下位、5位で浮かぶことがありませんでした。しかしエース級のジョンソン、大瀬良、野村を欠きながら1011月は19114分でした。若手が頑張ったとみるべきでしょう。

これを見ると今年はダメだったが、来季に希望を持たせるものです。

負け越した原因を列挙すると以下のようになります。

  1. 投手陣の崩壊。特に中継ぎ、抑えに人を欠いた。

  2. 打力、守備力の全体的な低下

  3. 勝利への執着力の低下

  4. 監督の力量不足

 セ・リーグの順位は①読売②阪神③中日④DeNA広島⑥ヤクルトとなりました。

日本シリーズで読売がソフトバンクに昨年に続く4タテを食らったように、ペナントレースを独走した読売も決して強くありません。戦力自体は、ヤクルト以外はほぼ団栗の背比べ状態だと思っています。その中で戦力がうまくかみ合ったのが読売ということですが、それは監督の力かもしれません。ですから故障者が多く出た広島は佐々岡監督の力量不足を上げました。

投手陣は、先発ではジョンソンが全く勝てず、しかも前半戦は抑えに予定していたスコットも使い物にならず、3連覇時に実績のあった一岡、今村、中崎がそろって不調で、フランソワも出来不出来が激しい状態でした。ここまで中継ぎ、抑えがひどいのは予想外で、首脳陣も苦労したでしょう。

実績と力量の見極めが出来なかった監督、投手コーチの責任は重大です。

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崩壊状態の投陣の中で新人の森下が10勝あげる大奮闘しました。九里も奮闘して規定回数を投げています。後半になって大瀬良と野村が故障で抜けても、遠藤、中村祐二がローテーションに入り、あまり調子がよくない床田を含めて5人態勢が出来、空いた時に薮田が投げていました。

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そしてなによりフランソワの抑えが安定し、塹江も8回を何とかできる状態、ケナムも安定した投球が続き、後ろがそろってきて勝ち星が付きだしました。

去年活躍した菊池は抑えに回された時はダメでしたが、本来の中継ぎではまあまあで、中田も中継ぎの1員としては帰ってきた感じです。若手の島内は頑張っていましたが、塹江やケナムのレベルにまでは届きませんでした。でも速い球があるので、もう一段上がれば、良くなるでしょう。

そんなことで投手陣は、前半があまりに悪すぎて、後半に少し頑張ったぐらいでは取戻しは出来ませんでした。今年は全く駄目だった岡田、中村恭平、矢沢、手術した高橋昂也、アドゥワ等など、再生する可能性を持った若手、中堅がいますから希望はあります。

堂林は本物か

野手は主軸としてフルに働いたのは鈴木だけで、菊池や田中、松山は最終的にはそこそこの数字にはなりましたが、これも前半がダメでした。それに対し堂林が「覚醒」と言われるぐらい、前半はよく打ちました。夏に全く駄目になりましたが、秋にはまた復活しました。彼が本物であれば打線の厚みが増します。

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若手では坂倉が活躍し、少しだけですが大盛、羽月等若手に出番がありました。でもまだこれからです。ベテランでは長野は昨年に比べて格段に良くなりました。

それに引き換え、長期離脱した西川や主軸を担うべき会澤、野間が期待を裏切りました。そして外国人もピレラはそこそこですが主軸にはなれなくて、バチスタが抜けてメヒアに期待しましたが、これも伸び悩みです。2軍ではよくても1軍では存在感がありません。

攻撃が全体的に「そつのない野球」ができず、打線が粘っての逆転もあまりありません。守備力も落ちているように感じます。

ノーアウト、ワンアウト3塁の時に確実に点を取る、それが出来ませんし、相手のすきを見て進塁することも出来ない場面が多くありました。わずかなことです、3連覇時はそれがありません。

それとエラーです。タイムリーエラーが目立ちます。

緒方監督から佐々岡監督になり、本人の雰囲気ですが、厳しさがない感じです。それに外国人投手の力量を見誤っていたという印象を持ちます。速いボールを持っていたスコットが抑えで全く駄目、と言うのが、出足を大きく狂わせました。

勝ちにこだわる

 今年は久しぶりに読売に負け越しました。3連覇の時は負けていても「いつかひっくり返す」という感じがありました。相手は嫌だったと思います。それが、菅野が出てくると負けか、と言う感じになっています。

阪神の西投手にも04敗です。足を絡め打線として機能する工夫が必要です。どんないい投手でも必ず打ち崩す迫力を持たないと、そんな雰囲気のチームに再生してほしいと思います。

 昨年も書きましたが、誠也と菊池以外は複数のポジションを守れるように練習してほしいですね。坂倉にしても捕手にこだわるのはいいですが、一塁か外野を守れればもっと出場できると思います。磯村も右の代打と一塁の守備が出来れば打線の厚みが増します。

 投手陣の立て直しは、すぐに目につきますが、それだけでは不十分で、優勝できないと思います。広島は攻撃と守備の迫力です。

優勝を争い、日本一をめざすチームに

 私は、毎年の優勝を求めているわけではありません。しかし現状のセ・リーグを見ると「強い」と言うチームはありませんから、優勝争いをしていれば、ここぞというときに力を発揮するチームが抜け出すことができます。

 読売の打線は迫力を感じますが、投手力はそろっていません。まして菅野が抜ければ柱がない状態になります。普通にみるとDeNAは打線も投手陣もそろっているように見えますが、故障者が出たりして、しかも試合運びにむらがあって、今期でも上位に来ていません。阪神は明らかに打力不足です。ヤクルトは投手力の数が足りません。

 バランスからみると中日が浮かび上がってきます。しかも投手では大野と抑えのマルティネス、打者では大島、ビシエドという中心がいて、伸びしろのある若手もいます。

 そうみると、広島が各選手、特に投打の主軸がしっかりと持っている力の8割程度を出せれば優勝に絡めます。

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 投手では森下、野手では堂林が今年程度の力を発揮するのが前提ですが、田中や中崎などの中堅選手が3連覇時の力を取り戻さなくても、小園や大盛等、若手の伸びてきたチーム力は、丸の穴を防ぐことができる、と思います。

 個人的にアドゥワと坂倉が活躍することを願っています。

2020年11月に読み終えた本

『「世界」11月号』『科学の限界/池内了』『歪んだ波紋/塩田武士』『回転木馬のデット・ヒート/村上春樹』『夜を賭けて/梁石日』『探偵屋・純子/伊万里すみ子1~4』『落語三昧!古典落語7冊です。『夜を賭けて』が面白かったですが、『歪んだ波紋』が現代の誤報フェイクニュースをテーマとした社会派ミステリーと言うべき連作短編でした。私の評価は高いです。

『「世界」11月号』

 特集が「新政権の本質と構造」だったので、2年ぶりぐらいに買いました。78か月続いて安倍政権を国民が支持してきた理由、それを受け継ぐ菅政権の本質は何かを知りたい、とおもいました。

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 「誰が安倍政権を支えてきたのか『新自由主義右翼』の正体/橋本健二」では、アベ政治の岩盤支持層は格差拡大を容認する新自由主義者、男で比較的上位の階層、「自分は人並みより上」と。彼らは全体的には少数派だが選挙には積極的に行く。自民支持の枠内では多数派だから安倍政治はそこに引きずられている、という。そして「現在の政党システムは構造的に多数派の声を政治には反映させない」と批判。

 よくわかるけれども、どうかな、それだけかな。もう少しありそうです。

 「選別、分断、そして統制『メディアをどう立て直すか?』/青木理」は、メディアは一定の政権の総括をしているが、メディア自身が「威嚇や恫喝にさらされて」分断、萎縮、忖度によって「メディア不信を高めた」ことに触れていない、と指摘しました。その通りと思います。そしてこの論考は、それについてまとめてありました。

      評判の『人新世の「資本論」』を書いた「ジェネレーション・レフト宣言/斎藤耕平」もありました。コロナ禍の本質、グローバル資本主義に対峙する必要性を強調しています。コロナ後の課題は経済の活性化ではなく、資本主義が「正常に機能して」地球環境を壊していることを見据えて、新ビジョンの必要性を訴えています。納得です。

 片山善博の「日本を診る」は「菅政権が標榜する「改革」の真贋を見抜く」は短い文章で、本質をズバリつきます。サクラ問題、官房機密費、政党助成金に手も触れない「改革」を批判しました。

『科学の限界/池内了

 菅総理大臣の学術会議会員任命拒否問題で「学問の自由」について、学術会議が軍事研究を拒否する声明を出していることに、批判の声があります。明らかに論点のすり替えですが、この際、学術会議を批判して、政府のおぼえをめでたくしたいという御用学者の策動かな、と思います。

 軍事研究拒否に反対の論陣を張っていたと言われる、大西隆前会長も今回の政府の対応に厳しく対峙していますから、それと比べて歴然です。

 とまあ、そんなことを思いながらこの本を読みました。池内先生の基本スタンスである国民生活、民主主義、平和に役立つ科学というものの姿が「限界」という視点から解明されています。

 限界の種類を「人間が生み出す」「社会が生み出す」「科学が生み出す」「社会とせめぎ合う」と分類し、科学には限界があるのだが、それでいいということです。池内先生の好きなのは技術につながるものではない、文化としての科学であり、何か特定される目的的な「役に立つ」ものではないもの「無用の用」が好きなようです。真に科学者らしいと思います。 

『ゆがんだ波紋/塩田武士』

誤報にまつわる5つの物語「黒い依頼」「共犯者」「ゼロの影」「Ⅾの微笑」「歪んだ波紋」で、中心となる人物が少しずつずれて、主役が脇役に脇役が主役となる連作短編です。とても上手な構成ですが、しかし読みにくい面もあります。状況設定が頭に浮かぶまで読み進めて、あそうか、とわかるのですが、そこまで我慢して読まないといけないからです。これが塩田さんの文体ですかね。

『罪の声』が映f:id:denden_560316:20201216000342j:plain

画化されて、現在も上映していますから、塩田本は人気です。この本も、ゆっくり読みなおそうと考えたのですが、貸出期間の延長は出来ませんでした。

 テーマが「誤報」ですから新聞記者が中心に座り、誤報の性格、その責任と影響、ジャーナリズムへの罠などを詳細に語ります。全体として現代への警鐘だと思います。あるブログの紹介を援用して、簡単に紹介します。

「黒い依頼」誤報と虚報。調査報道の特別チームが企画をでっち上げて記事を捏造していた。「共犯者」誤報と時効。引退していた記者のもとに同期の男が自殺したという知らせが入ります。彼の周囲を調べると過去の誤報が浮かび、自殺はそれに絡んでいた。「ゼロの影」誤報と沈黙。寿退社した元記者の主婦が、身近に起きたささいな事件の隠蔽を知る。それには、新聞記者もからむ深い闇があった。「Dの微笑」誤報と娯楽。バラエティ番組は誤報、ヤラセによってつくられている。「歪んだ波紋」誤報と権力。事実を検証するサイト「ファクト・ジャーナル」を陥れる罠がしかけられる。伝統的なジャーナリズムの信用失墜を狙う一味がいた。

回転木馬のデット・ヒート/村上春樹

9編の短編小説「はじめに・回転木馬のデット・ヒート」「レーダーホーゼン」「タクシーに乗った男」「プールサイド」「今は亡き王女のために」「嘔吐1979」「雨宿り」「野球場」「ハンティング・ナイフ」

    やはり私には村上春樹の良さがわかりません。ちょっと奇妙な味を感じたりもするのですが、話がばらばらと広がっている感じでドーンとくるものがありません。この短編集は、こんな話を聞いたという展開です。簡単に紹介します。

「はじめに・回転木馬のデット・ヒート」この小説集は、現実的なマテリアルを溶解して、それを適当な形にして使用する、人から聞いた事実を書くともいう。

レーダーホーゼンレーダーホーゼンはドイツの半ズボンのことです。語り手の母が、ドイツに行って夫のレーダーホーゼンを買ったときに、突然、これまでの夫の所業を思い出して離婚してしまった。娘は、今まで母を恨んでいたが、それを聞いて納得した、という。

「タクシーに乗った男」絵「タクシーに乗った男」を買ったが、その後に、描かれた男に出会った。

「プールサイド」人生の折り返しを意識する元水泳部の男。プ-ルでターンするように、人生もターンしているのか。

「今は亡き王女のために」人を傷つけるのが天才的に上手な女。その夫と話をする。

「嘔吐1979」不倫と嘔吐。友達の恋人や奥さんと寝るのが好きな男が40日間(197964日~715)、いたずら電話を受けると、ともに吐き続けた。

「雨宿り」「金を払って女と寝る男はまっとうな男ではない」という。金を受け取ったことがある女と話をする。彼女は金額を要求して断られたことがないという。

「野球場」好きな女のアパートを覗けるアパートを借りた男。大型カメラを据えたが、心身ともに憔悴していった。二人のアパートの間には野球場があった。

「ハンティング・ナイフ」沖縄かどこか、基地のある場所のホテルで、車椅子の青年と出会う。彼は大きなハンティング・ナイフを持っていた。もう一人の客、太った白人女は真っ赤なビキニを着ていた。

『夜を賭けて/梁石日

 文庫本500頁を越える大部でしたが、面白くてどんどん読めました。

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 昭和30年代の雰囲気があります。もはや戦後ではなくなった、と言われる時代ですが、まだまだ貧乏はたくさんあります。その中でも在日の人は正業に就くのも難しかったと思います。

 実話に基づく話です。大阪城の東側に戦時中の武器製造した一大拠点、陸軍砲兵工廠があり、空爆によって徹底的に破壊されます。戦後10年たっても、そこは整理もされず、鉄などの金属が埋もれていました。それに目を付けた近所の「朝鮮部落」の人々が、夜陰に紛れてそれを盗み出して売りさばいて、生計を立てていました。その噂を聞いて全国から食い詰め者がやってきて数百人が廃墟に出入りし、新聞は彼らをアパッチ族と呼びました。

 いわば国家財産盗んでいるのだから、警察も黙っておられず、何度かの小競り合いが続いたのちに、大掛かりな捕り物で、壊滅に追い込みました。

 ここまでは、はでな悪漢小説の様相ですが、2部に移ると、国家権力の大きな力で、押しつぶされていく個人を描きます。抗う男とその男に心底惚れて寄り添う女、と1部とはかなり趣が違います。

 戦後に作られた「朝鮮半島出身者を韓国に送り返すために一時収容する」大村収容所が舞台です。その当時の韓国は李承晩の反共軍事独裁政権で、アカと見られたら、確実に殺される国でした。そこに日本共産党の活動にかかわっていたとみられる金義男が放り込まれます。その恐怖と非人間的な罠が渦ましています。

 最後は、粘り強い弁事と運動で釈放されます。そして彼はゆっくりと人生を振り返るという終わり方でした。

 前半は悲惨な生活ですが生き生きとした泥棒たちです。後半は陰湿な国家の犯罪の恐ろしさを感じました。

『探偵屋・純子/伊万里すみ子1~4』

 探偵事務所の新入社員の女を主人公にして、会社の上司と下請けの探偵との三角関係という人間関係を持ちながら、色々な依頼の調査、事件に対応していきます。これもレディースコミックです。

『落語三昧!古典落語

 各演目を文字で再現したものです。傑作ばかりですから読んでも面白いです。

明烏古今亭菊之丞」「夢金/古今亭文菊」「妾馬/柳家花緑」「応挙の幽霊/三遊亭兼好」「時そば瀧川鯉昇」「死神/三遊亭兼好」「阿武松柳亭市馬」「野晒し・柳家花緑」「芝浜/瀧川鯉昇

 「夢金」「阿武松」は初めて知りましたので、それを簡単に紹介しておきます。

「夢金」は金が欲しい欲しい、という船頭が、侍に雇われて川を上っていきますが、一緒にいるのが誘拐された金持ちの娘だと気づいて、機転を利かして助ける話です。お礼に大金をもらって大喜びしますが、その時、下から「うるせいぞ」と声がかかり、夢の話であったという落ちです。

阿武松」は相撲取りの話です。「おうのまつ」と読むことを知りました。これは長州藩のお抱え力士になった、後の横綱阿武松緑之助の出世話でした。名前は萩にある名所、阿武松原から取られています。

 

 

 

西神ニュータウン9条の会HP12月号

表記のHPが更新されています。是非ご覧ください。

西神9条の会 (www.ne.jp)

今月も10本の多彩なエッセイが掲載されています。

学術会議のこと、国民に早くわすれさせたい菅政権と、いつまでも問題を提起して忘れないようにする我々との根競べだと思います。

「中国、北朝鮮、韓国と私たち」は12回目です。隣国とどのように付き合っていくか、いつも考えさせられるエッセイです。

コロナ禍のパリの様子を紹介する「パリ通信」は、リアルな報告です。

そして今月は映画の紹介が私を含めて3本ありました。富山市議会のドキュメンタリー『はりぼて』。日本占領時代の朝鮮の実話を描いた『マルモイことばあつめ』。私は中国映画『芳華』を書いています。

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『芳華』

外国映画を見るときに、制作された国の現状をよく考えながら見る必要があると思いました。中国はいい映画を作っていますが、近現代社会を描く映画は、注意する必要があります。

2020年11月に見た映画

『ステップ』『ひとよ』『ストレイ・ドッグ』『海底47ⅿ古代マヤの死の迷宮』『サーホ』『82年生まれ、キム・ジヨン』『テルアビブ・オン・ファイア』『プリズン・エスケープ』『滑走路』『ホモ・サピエンスの涙』10本でした。今月は例会の『テルアビブ・オン・ファイア』以外に、これと言った映画がなくて、だらだらとして説明になってしまいました。

『ステップ』

 原作が重松清ですから見に行きました。でも平凡な映画でした。

 若くして妻が死に、残された2才の女の子を男手一つで育てる男の映画でした。彼女が高校生になる時期に男にも好きな女が現れて、娘と色々ありながら幸せをつかみました。出てくる人間(保育士、妻の両親、会社の上司、部下等)がみんな優等生で面白みに欠けます。何よりも主人公の男が品行方正です。

『ひとよ』

 この2本はパルシネマで見たのですが、こちらはもう少し複雑な家族を描きました。暴力的な夫から子どもを守るために夫を殺す女です。自首して刑務所に入り15年後に家に帰ってきます。残された子ども、もうみんな大人ですが、彼らの複雑な受け止め方を映画にしました。原作は芝居(劇団KAKUTA、桑原裕子)として書かれたものです。

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 殺人者の子ども、として世間の批判を受けてきた子どもをたちは、心に傷を負って生きてきて、それぞれに母親に対する受け止め方が違う、そこまではわかります。

 長男は会社員、雑誌記者となった次男は作家になりたいために、母親の殺人事件をネタに暴露記事に仕立てていました。長女は美容師にならずスナック勤務。父がつくったタクシー会社は子どもを継がず、母の甥が経営している。

 子どもを守ることはこれしかないと信じた母、稲村こはる(田中裕子)は強い女でした。それに引き換えて子どもは弱かった、と感じました。

父の暴力も子どもによって違いがあり次男は「殺さなくても、我慢すればよかった」と言いました。

   「人殺しは出ていけ」みたいなビラが貼られ、地域社会は受け入れていなことを示唆しますが、何か違和感がありました。一晩で貼るには大人数がいりますし、タクシー会社は15年も持っているからです。

白石和彌監督の新しい家族の映画という評価がありますが、これまで見た『麻雀放浪記2020』『彼女がその名を知らない鳥たち』『日本で一番悪い奴ら』と同様、よくわからない映画でした。

『ストレイ・ドッグ』

 ニコール・キッドマンがこれまでと違って、堕落したような薄汚い女刑事を演じています。でもそんな、堕落するような設定ではないように、私は見ました。原題は「Destroyer」ですから「破壊者」。邦題は「野良犬」という意味です。

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 17年前に銀行強盗団に潜入捜査を失敗して、相棒を死なせることになります。その相棒を彼女は愛し、子どもも宿していました。心に大きな傷を負います。

しかしその後、子どもを産み、別の男と結婚し離婚して、子どもとうまくいっていないという人生でした。アルコールにおぼれている感じです。それが心の傷のためなのかもしれませんが、それではあまりに弱い刑事です。

映画は再び帰ってきた強盗団のボスと対決するのですから、ちょっとちぐはぐです。

刑事はどのように生きるのか、失敗と言っても色々あります。その種類、あるいは周囲の人物によって立ち直り方も違うと思います。愛する人を失ったのは大きな痛手ですが、その後17年も刑事を続け、復讐も片隅にあるなら、もう少し違う人生でしょう。納得しがたい人物設定でした。

 しかもラスト、ボスを殺しますが、それが冒頭のシーンだったと、過去と現在が錯綜する撮り方をして、思わせぶりだと、思いました。

『海底47ⅿ古代マヤの死の迷宮』

 メキシコの洞窟、海水が入り込み、水に沈んだ遺跡の洞窟へ潜る4人も娘。そこは光の届かない闇の世界で、わずかな生き物は目が退化しています。

 突然地震が起きて帰ることが出来なくなってしまいます。その時、盲目のホオジロサメがいることがわかりました。4人は懸命にサメを避けつつ出口を求めて洞窟をさまよいます。空気も残り少なくなってきた、と言うハラハラドキドキの映画でした。

『サーホ』

 インド映画、よくわからないが3時間もある大作。インドの闇社会の黒幕の内部の暗闘、その息子の巻き返し。そして警察も絡んできた戦闘、暴力ですが、よくわかりませんでした。

82年生まれ、キム・ジヨン

 いい映画だろうと思いますが、私にはわからない映画でした。

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韓国の中流家庭の平凡な主婦キム・ジヨンは、いつの間にか心の中に別人格を持つようになっていました。なぜそのようになったのか、様々なプレッシャー、心の葛藤が彼女を追いこんだということですが、それがわかりません。

韓国の女性の置かれている状況をうまくとらえて描いているようで、原作も映画もヒットています。

 彼女の夫は優しいし、周囲の人間も普通です。会社では能力に合った活躍の場を与えられなかったかもしれませんが、結婚して子供も出来て、家に入ります。そんな人は、韓国では当たり前だと、映画も描いています。

義母との関係がしんどいのかも知れませんが、日本でもよくあることです。

いわば普通の韓国女性の悩みを描いているのかもしれません。彼女の異変に気づいた夫は、彼女のプレッシャーを与えないように気を使います。この映画では男もやさしいのです。だから「いいではないか」ということではない、という主張を感じました。

『テルアビブ・オン・ファイア』

 パレスチナの実情を喜劇に絡めて描きました。何も知らずに見ても、それなりに面白いのかもしれませんが、パレスチナの実情を知れば、なぜこんな映画を作ったのか、いろいろと考えてしまいます。どこかできちんとした感想を書きます。

『プリズン・エスケープ』

アパルトヘイト下にあった南アフリカの刑務所、黒人解放運動にかかわった白人が収容されています。そこから脱走した実話に基づく映画でした。

彼らは、牢獄に幾重もある扉を突破するために、何種類もの鍵の合鍵を木でつくります。看守が持っている鍵を記憶して、木を削ります。

看守に見つからないように鍵の効果を確かめたり、逃走経路を確認したりします。全編ハラハラドキドキの映画ですが、それだけでした。

『滑走路』

 32才で自死した萩原慎太郎の歌集をもとにした映画だそうです。彼の自伝ではありません。

 中学生時代にいじめにあっていた男二人のその後、そしてその時に、彼らと少し絡む女性のその後、という3人の平行した人生を描く、なんとも言えない映画です。

一人はいじめのトラウマで高校、大学ともうまく入学できず、非正規雇用の労働者となり、ついには自死します。

もう一人は猛勉強で国家公務員のキャリアとして厚生労働省で働き、非正規労働者問題を担当します。仕事で自死した男の実像


を探っていて、それが同級生で、自分がいじめにあっていた時に救ってくれた友で、その友がいじめに対象になったという関係でした。

そして、3人目は中学の時に同級で、その後転校していった女学生、彼女は切り絵作家として成功しますが、夫とはうまくいかず離婚します。

その3人が出てきますが、絡み合っているわけでもありません。いじめ、非正規をテーマにしている、と宣伝されていたので見ましたが、よくわからない映画です。 

ホモ・サピエンスの涙』

 ちょっとわかりにくい映画でした。細切れのシーンで関連性がないので、どんな映像であったかも思い出せません。

 チラシにある恋人同士が抱き合って空中を飛んでいるシーンだけが残っていますが、彼らがどうしてそこにいるのかわかりません。

高野、熊野古道の旅、その2

二日目は熊野古道を歩きました。

28日は朝早く起きて、龍神温泉から熊野本宮大社へと車を走らせます。くねくねした山の中の道路を1時間ほど走って、中辺路と呼ばれる古道とほぼ平行に走っている国道311号へ出ます。今度はそれを通って熊野本宮大社まで行きました。

この間、ほとんど景色の変わらない山の中です。

本宮大社をお参りしてから、バスに乗り、15~20分程度で発心門王子に着きました。そこから中辺路の古道を約3時間程度歩きました。

この神社は熊野三山の一つで、スサノオノミコトを主神としています。詳しいことは調べてください。

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紀伊半島の図

紀伊山地の奥深くあって、修験者の修業の場だったようです。まったく知らなかったのですが、この神社はもともと熊野川の中州にありました。明治になって洪水で流されたそうで、それを現在の位置にあげたそうです。

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こんな感じです。今は、そこには大鳥居が立っています。写真の右手に見えるのが熊野川の堤防です。新しいです。

これは、この写真のすぐ下流でなくなっています。ですから大雨で川が増水すると、堤内地に水が入ってきます。川の反対側はすぐ山です。

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山の上から、熊野川のほとりに立つ鳥居を見たところ

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現在の神社の入り口にある鳥居

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本殿

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発心門王子の案内図

○○王子と言って、古道沿いに神社があります。百以上あるそうです。

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帰り道によった瀧尻王子

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杉木立の間を1~2間の山道です。急なところは石が敷いてありますし、杉の根が飛び出しています。

周りの風景も、山村と段々畑でそんなにいいものはありません。ところどころに地蔵もありました。

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この日は、本宮大社近くの川湯温泉、富士屋に泊まりました。夕食と朝食です。

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3日目は、田辺市の市街地に出て、白浜温泉の隣にある南方熊楠記念館によりました。

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熊楠像

ここは半島の最先端にあって見晴らしはよかったです。あまり時間もなく、熊楠の偉大さを味わうことはできませんでした。



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和歌山市のほうを見た写真。

かえりは阪和道路からりんくうタウン湾岸線で3時間程度で帰ってきました。高速道路は早いし、湾岸線の高架は高いところを走っています。空を飛ぶような感じです。

大阪湾は、神戸から関西空港まで工場地帯で埋められていることを実感しました。