2021年3月に読んだ本その1

『文豪山怪奇譚/東正雄』『韓国 行き過ぎた資本主義―「無限競争社会」の苦悩/金敬哲』『アンソロジー隠す/アミの会(仮)』

とりあえずこの3本を書きました。

 アンソロジーが好きです。知らない作家の短編が読めるからで、知らない作家の長編はちょっと手が出にくいですが、アンソロジーに入っている短編は無理にでも読みます。ここで魅力を感じた人は次を読みます。でも今回は、そういう新しい人とは出会いませんでした。

『文豪山怪奇譚/東正雄』

火野葦平「千軒岳にて」田中貢太郎「山の怪」岡本綺堂「くろん坊」宮沢賢治「河原坊」本堂平四郎「虚空に嘲るもの 秋葉長光菊池寛百鬼夜行」村山槐多「鉄の童子平山蘆江鈴鹿峠の雨」泉鏡花「薬草取」太宰治「魚服記」中勘助「夢の日記から」柳田國男「山人外伝資料」編者解説(東雅夫

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 文豪と言われる人達ですが、昔の文体はちょっと読みにくく、10頁以内、長くて30頁と短い作品ですが、時間ばかりを食いました。でも雰囲気はあります。

 私の好みを紹介すると「くろん坊」。これは、人間がくろん坊(黒人と言う意味ではなく、人間の仲間に入らない山の民)に「娘を嫁にやる」とだまして使役し、ついには殺してしまう話です。くろん坊の恨みが残り・・・、と言う話です。

「虚空に嘲るもの 秋葉長光」は名刀、長船を持って、嵐の中を山頂の神社に参った豪傑が途中で、何者かに腕をつかまれますが、刀で払って登り切り、帰りの朝日の中で見ると、岩を切り取っていた、という話です。ともに短いものですが、哀れさを感じました。

 柳田國男のエッセイも怪奇譚に入れられています。それは書き出しで、山に住む山の民を、里に住むものとは違う先住族としてみるところから、一連の小説と同じ怪奇的レベルになっているからでしょうか。山の民は麓に降りることなく、山から山と山脈の中を行き来して、日本列島の自由に移動していると書いています。

『韓国 行き過ぎた資本主義―「無限競争社会」の苦悩/金敬哲』

①「過酷な受験競争と大峙洞キッズ」②「厳しさ増す若者就職事情」③「職場でも家庭でも崖っぷちの中年世代」④「いくつになっても引退できない老人たち」⑤「分断を深める韓国社会」

    「政府の過剰に新自由主義的な政策により、すべての世代が競争に駆り立てられている「超格差社会」韓国。その現状を徹底ルポ!」「一握りの勝ち組とその他に分断された超格差社会」という宣伝文句がありました。

 韓国は特殊合計出生率1を切る状況で、これだけでどれほど生き辛い、希望の持てない社会であるかが推察できます。

 若者が結婚できない、結婚しても子どもを産む余裕もなく、子どもの未来が明るいものではない「いくら努力しても階層の上昇が難しい社会」そんな思いを持っています。それをすべての世代について紹介していました。大変です。

①は子ども時代、②は大学生の就職事情、③現在の社会を支えている4050代、④老人世代です。

 その直接のきっかけは1997年の通貨危機、映画『国家が破産する日』であったように、IMFに融資を頼んで、その条件として新自由主義政策を受け入れたことです。そして皮肉なことに、初めての進歩派政権、金大中大統領の時代にその実際の政策を実行します。

 過酷な規制緩和と緊縮経済によって、借金は3年半ほどで返したといいます。それが今に至っているということです。

 皆保険皆年金制度が整ったのは1999年ですから、制度全体の維持も大変な状況です。このような社会をどう変えていくのか、韓国国民の知恵と力を見てみたいと思います。

『アンソロジー隠す/アミの会(仮)』

大崎梢「バースデーブーケをあなたに」加納朋子「少年少女秘密基地」近藤史恵甘い生活篠田真由美「心残り」柴田よしき「理由」永嶋恵美「自宅警備員の憂鬱」新津きよみ「骨になるまで」福田和代「撫桜亭奇譚」松尾由美「誰にも言えない」松村比呂美「水彩画」光原百合「アリババと四十の死体 & まだ折れてない剣」女性作家ばかり11篇です。

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 知っているのは柴田よしきだけでした。はっきりと言えば、この本では「次も読んでみよう」と思う魅力的な作家を見つけることは出来ませんでした。良かったといえるのは柴田よしきだけですね。

 短編であるからか、ここに書いている作家の特性か、テーマや舞台設定が日常的で身近なことばかりです。わずかに「アリババ・・・」が千夜一夜物語の一つを賢い女奴隷をミステリー風の裏話に仕立てています。

 女性が主人公ですが、みんなちょっと意地が悪いか、ユニークな性格です。私が気になり憧れる、あるいは可愛いと思うような人は描かれていません。

 

 

2021年2月に見た映画その2

2月の後半に見た『あなたの名前が呼べたなら』『秘密への招待状』『花束みたいな恋をした』の3本を書きます。

『あなたの名前が呼べたなら』

 映画サークルの2月例会でした。以前に劇場で見て、今回の担当であり試写で見て、例会日にも見ました。「良くできた映画」と言う感想ですが、例会のちぎりアンケートで「良くなかった」という評価が一つ入っていました。意見は書かれていません。

 この映画は、夫が死亡したために田舎から出て金持ちの家のメイドとして働きだした、若い寡婦ラトナが、新婚早々、妻の浮気で別れた米国帰りの男アシュビンと、身分の差を越えて、お互いに思いを通じ合わせる、プラトニック・ラブであり、ラトナの自立の映画です。インドにある男女差別、身分差別、経済格差等が背景に描かれています。とてもやさしい映画でした。

 何が「良くない」と思ったのかと気になります。考えを巡らすと、この映画はインドの深い恥部を描いていない、ことに気が付きます。極端な貧困、根深い身分差別、暴力的な宗教差別、不衛生なスラム街が出てきません。そして政治的な批判もありません。

この映画の監督ロヘナ・ゲラは米国の名門大学で学び、映画作家であると同時に平和運動自然保護団体にも加わっているようです。男女の違いはあるもののアシュビンと同じような西欧的な民主主義の価値観を持っているように思います。そこから女性の自立という観点で、経済発展と近代化をめざす、インド社会の問題をとらえたと思います。

 ですからインド特有のどろどろしたものを避けて、経済格差と男女差別を浮き上がらせるように単純化したと思いました。

『秘密への招待状』

 原作があり、原題と同じく「結婚式の後で」といいます。

 インドで孤児院を経営している女性のところに、米国の大企業を経営する女性から「寄付するから来てくれ」という連絡が入ります。そしてニューヨークで、彼女の娘の結婚式に出席します。そこから、この映画の人間関係などの種明かしが始まります。

 ちょっと気色悪い映画と感じました。こんな言い方をすれば反発があるかもしれませんが「大金持ちがインドの孤児院に2000万ドルを寄付する話に、尾ひれを付けただけ」みたいです。

 子どもが出来た時に、育てられないからと、男と別れ子どもを養子に出した女。女と別れた後で子どもを取り返して自分で育てた男。その男と再婚して継母となって娘を育てた女、彼女は広告メディア会社を立ち上げて大成功。母親は死んだと聞かされて育った娘。彼らが一堂にそろったのは、この娘の結婚式でした。

 のちに、その関係がわかるのですが、みんなそれなりに成功していて「よかったね」です。ところが経営者として成功した女性の余命がなく、会社を処分してインドの孤児院に寄付をするのです。

誰でも死にます。それはちょっと不幸ですが、その程度です。それを、起業で大成功した一家が不幸な人生で何か悲しそうな雰囲気を出す映画でした。

『花束みたいな恋をした』

 脚本の坂元裕二はテレビドラマ『それでも、生きてゆく』から気にかけていましたし、その上、この映画で山音麦(菅田将暉)の書くイラストに、映画サークルの表紙を書いていただいている朝野ペコさんのものがつかわれている、そんな理由で、普段はあまり見ない甘い恋愛映画を見に行きました。

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 深く愛し合った若い男と女が、5年ほど一緒に暮らし、そして心が離れて、別れるという映画でした。

 盛者必滅会者定離と言う言葉を思い起こします。時の流れは残酷で、人の心は変わっていくし、この映画でいえば、女はそう変わらないが、男の生き方が学生時代と、働きだしてからは大きく変わっていく、と描きます。そして二人の心は離れていったが、恋愛感情が無くなっても男、麦は「結婚しよう」といい、女、絹(有村架純)は別れを選び、同棲を終えていきました。

 でもそれは男が変わり、女が変わらないということではなく、この場合の二人がそうだ、と言うだけです。

 二人がまだ知り合っていない段階で、同じような感性の持ち主であると見せます。そして知り合い、本、雑誌、ゲーム、映画、芝居、音楽、展覧会、写真等の好みが一致していることで、二人はとても満足して、恋愛関係におちます。

この時「好きなものが共通よりも嫌いなものが共通する方が長続きする」という立川談四楼師匠の言葉を思い起こしました。

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 上手な映画ですが、気になったことを書いておきます。

 独身男、麦の異様にきれいなアパートの部屋、新聞も週刊誌、月刊誌もとっていない、テレビも見ない、エロ本エロDVDもない生活環境です。芸術家肌とは思えませんが、大学を卒業した時は、彼はイラストレーターを志望していました。

 二人は現実に対応して、就職します。でも女、絹はやりたいことをめざして仕事を変わります。しかし男、麦は「仕事は遊びじゃない」と我慢して働くことを選びます。その彼の会社は通販業界です。荷物を配送していた同僚が「労働者ではない、誰にでもできる仕事はしたくない」といって、荷物を放り投げて、退職したエピソードを挿入していました。

 これが男と女の違いということではないです。逆の場合もありますから。昔のパターンはどちらかが我慢して、一緒に暮らす幸せを選ぶことが多いのかな、と思いました。

 

2021年2月に読んだ本

『ほめる力/立川談四楼』『世界2月号』『林家たい平 特選まくら集/林家たい平』『神の城/本城雅人』読了したのはわずか4冊でした。2月はついつい惹かれて落語家の本2冊を読んでいます。

このほかに中途半端に止まった本が34冊ありました。それはまた読了した時に書きます。

紹介する本が少ないので、分けずに書きましたが、けっこう長くなって、そして遅くなりました。

『ほめる力/立川談四楼

 談四楼はFBで率直な政権批判を言っているので、どんな人かと思い読みました。普通の常識人です。談志の弟子とは思えません。この人、毎日新聞の人生相談も担当しています。

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 本には「人に認められる極意教えます」という副題がつく、エッセイ集です。3章建てで「ホメ方・ノセ方の技術」31篇「世渡り上手となるために」51篇「私も叱られてばかりでした」14篇ですから、どれも23頁の短いものです。

 落語家ですが極めて常識的なことを言っています。ちょっと気になった言葉を紹介します。

「談志は面と向かって真剣に褒める」「人は共感、感心してくれる人が好き、多少大げさだっていい」「好きなものが共通している相手より、キライなものが共通している相手の方が実は長続きする」「囃されたら踊れ」「新聞を侮るなかれ、一紙熟読せよ」「匿名性に隠れている奴は絶対に信用しない」

そして談志に命令された「2時間の映画を15分に圧縮し」話をする、これはとても有意義な作業です。談志は送られてきた試写会に弟子を行かせて、弟子からこのようにして映画を聞き、そしてあたかも自分が見たように語ることがあるそうです。しかもそれが見事で映画よりも面白い、と談四楼は評価します。まさにイリュージョンです。

『世界2月号』

知らないことが多く書かれているので、ついつい紹介が長くなります。でも要約した紹介ではなく、感想的要素が多くなっています。

【特集①「大絶滅の時代」②「阿波根昌鴻 態度としての非戦」】

①地球上で生命が生まれて40億年近い、その間5度、生物絶滅の時代があったらしい。直近は6550万年前。火山の大爆破や、隕石が降り注いだ時代等で、大きく地球環境が変わったためです。そして現在が6度目で、しかも過去最大の大絶滅が、我々人類の手で引き起こされていると書かれてありました。

 その通りなのだろうと思います。

②阿波根昌鴻さんを初めて知りました。沖縄戦で子どもや家族を亡くし、自らは九死に一生を得て、戦後は故郷の伊江島で農業しながら、米軍の土地接収反対、反基地闘争など、平和を願う戦いを貫いた人です。

【脳力のレッスン特別編/寺島実郎】「バイデンの米国と正対する日本外交の構想力」

 今回の米国大統領選挙の特徴を知りたくて新聞、雑誌、インターネットの論考で探してみたのですが、この記事は答えを出してくれました。寺島さんの話がわかりやすいと思います。

 米国が「分断されている」というのが大方の見方です。民主党支持と共和党支持が「話もできない」という状態だと新聞の論評を読みました。世論調査でも両党支持者の重要と考える政策課題そのものが大きく違います。民主党支持者はコロナ対策が最重要課題と考えているが、そう考える共和党支持者はわずか4%です。まるで住んでいる世界が違うようです。

分断に加えトランプに多くの支持(前回63百万→74百万)が集まったのが、私にとって驚きでした。トランプの差別主義、フェイクを米国民は嫌がっていません。白人でプロテスタント72%がトランプに投票しています。

 バイデンの最大の勝因は投票率60%から67%に上がったことです。そして女性や黒人の多数が彼を支持しています。 

片山善博の『日本を診る』】「国の新型コロナ対策がうまく進まない背景を見る」

 見事なくらいに、現在の政権の基本姿勢を指摘しています。

 「国民に注意を呼びかけるばかりで、国として感染拡大防止につながる施策は何もない」とバッサリ。それは、これまでの施策の点検をして「その反省や教訓を今後の施策に生かそうという姿勢が見られない」からで、「ご本人が聞く耳を持たないのか」「担当官庁や現場の意見を聴いて、じっくり検討しましょう」という声が周囲から出ないからだろうと、言いました。

 安倍、菅政権を通じて高級官僚もふくめた内閣、政権中枢を忖度し従属する組織に縛り上げたということです。

 神戸市政もそんな感じがします。コロナ対策では、医療の限界を強調し、医学と医療従事者の努力を評価しながら、個人の行動の規制と自粛を求めています。しかし公衆衛生、医療体制の改善、充実については見事に言及しません。

無人島ではない、故郷だ】「馬毛島を、知っていますか/八板俊輔(西之表市長)」

 鹿児島県西之表馬毛島のことです。1月の市長選挙で再選されたのは、馬毛島を軍事基地にすることに反対する八板市長でした。155票という僅差ですが、市民は自衛隊、米軍の基地にすることに反対しました。

 国の安全保障を地方自治よりも上に置く意見もありますが、特定の場所での基地建設が安全保障と直結するのでしょうか。地政学宇宙戦争の時代にも有効なのか、疑問です。それよりも安全保障は外交が第一であり、国民全体での周辺諸国との友好関係を築くことでしょう。

林家たい平 特選まくら集/林家たい平

 横浜にぎわい座での独演会、その他の高座で演じたまくら集30本です。12月に読んだ「快笑まくら集」がよかったので、その続編も読みました。

 言葉を職業としていますから、その使い方に敏感で、おそらく実話をもとに面白く仕立てている感じのまくらです。

 30本の内10本が本編の落語が何かを隠しているのですが、わかったのは名前について話をした時の「寿限無」だけでした。便利になった世の中の代償みたいなことを話したときは「宿屋の富」(これは上方では「高津の富」)でした。これは主人公が田舎の大金持ちであるというホラ(見渡す限りの屋敷、迷子が出る、主人の世話に30人に奉公人、泥棒が入って千両箱が83箱しか盗まれなかった等)につながるのかな。

 「『飛ぶ鳥を落とす勢い』の雨」とは言い得て妙ですが、若者が言っていたそうです。同様に言葉をよく知らないのが、弟子の林家あずみ(さんまの「恋のから騒ぎ」に出ていた人らしい)で、上下関係が厳しい落語界で彼女の思考回路を異色のようです。美人で性格がかわいらしいから持っている感じです。実際に見てみたいと思います。

 尖閣諸島問題で、横浜港で釣りをしている中国人を引き合いに「中国人が魚を取っている」いう笑いは、いい感覚です。笑点大喜利では政治批判は円楽が引き受けていますが、たい平もできると思いました。

『紙の城/本城雅人』

IT企業が全国紙、東洋新聞を乗っ取り、買収を仕掛ける話で、IT側の乗っ取る作戦と、それに抵抗する新聞社、新聞記者の闘いです。

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両者が対抗して闘うみたいな感じですが、それよりも、それぞれの立場で新聞の現状の欠点、課題、そして近未来の新聞、メディアの可能性、役割について書いているのが良いです。

例えば、日本の特徴である宅配制度の是非、消費税の軽減税率や様々な規制で新聞業界が保護されていることへの批判があります。

でもどれほど実現性などがあるのか疑問です。駄目なところは、ジャーナリズムの「国民の知る権利」「権力の監視」としての役割については、現状に対する批判があまりないし、本来あるべき姿に言及しないところです。

日本のジャーナリズムの大きな問題である「記者クラブ」制度については、突っ込んでいません。

IT企業側は新聞経営について、合理化と儲かるスタイル、さらに全国紙を利用した多角的な事業展開などは示すだけで「社会の公器」を否定していますし、それは市場原理を完遂するためには邪魔であるかのようです。

株の買い占めなどはIT側が圧倒的に有利で、新聞記者の抵抗は、IT企業の最高責任者の個人的な欠陥(結果的にインサイダー取引で逮捕されるが、浮気や過去の不祥事)などを暴露して、「社会の公器」に相応しくない、と言う世論を喚起しようとします。

日刊新聞法を梃子にしようと考えます。その法律は新聞社「事業に関係ある者しか株を持つことができない」で守られていることを知りました。

この小説全体として、それほど深い社会性を持っているわけではないですが、新聞について問題提起をしていました。

 

福山、鞆の浦の旅 2021年2月26日27日

 269時過ぎに神戸を出て、福山市街に着いたのは12時前です。自動車専用道路(玉津IC、第2神明、加古川・姫路・太子BP、山陽自動車道姫路西IC、山陽自動車道、福山東IC)を通って約2時間半程度の適度なドライブでした。その間、落語のCD(枝雀、志ん朝、円生、金馬他)を聞いていました。

「平和人権資料館」「文学館」を見てから昼食、回転寿しの定食を食べ、午後から「県立歴史博物館」と「しぶや美術館」を見ました。これらの施設は、すべて福山駅北側の福山城址の周辺にあります。しかも駐車料金は、歴史博物館は、時間制限はあったものの、すべて無料でした。

 それから一路、鞆の浦へ約30分程度で、宿泊するホテル鴎風館につきました。

 「平和人権資料館」は鉄筋コンクリート2階建ての立派なもので、福山空襲と部落差別に関する展示をしています。

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 福山には88日に大きな空襲がありました。B2991機が襲来して314ha市街地の8割が焼失し、死者355人、被災人口47,326人(当時人口の81%)という被害がありました。福山には海軍航空隊の基地があり、火薬工場や航空機関連工場もあり、米軍はそれらを標的にしながらも無差別爆撃を敢行しました。

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ホールの真ん中にある母子の像

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水平社の旗

 隣に「文学館」があり、こちらも立派な建物でした。常設展示は福山出身の作家、井伏鱒二です。特別展示は「葛原しげる」でした。童謡作詞家で教育者です。

 「ギンギンギラギラ夕日が沈む、日が沈む、まっかっかっか空の雲・・・」の「夕日」を作りました。でもまじめな人だから面白いことはありません。

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文学館

 「県立歴史博物館」も立派な建物でした。しかし中身はいまいちです。草戸千軒ミュージアムという愛称だそうですが、芦田川の河口付近に沈んでいた鎌倉、室町時代に反映した港町、草戸千軒の遺跡が中心の展示です。

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 備後の国全体の歴史と民俗を展示していてほしかったですね。

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草戸千軒の復元模型

 城址から少し離れて「しぶや美術館」がありました。福山の不動産業グループの創始者、渋谷昇さんのコレクションをもとに作られた、彼の大きな日本家屋を改修した建物で、公益財団法人の設立運営です。

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しぶや美術館

 土井政治さんの色鉛筆画の展示があり、和室には家雛人形が飾ってありました。

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 宿泊した鴎風館は鞆の浦の東入り口にあたる場所にありました。東向きの部屋で大きな窓で、仙酔島を正面に見ています。

 翌27日の午前中は街歩きをしました。鞆港周辺は古い家屋が多く道も狭いところですが、そこへ入るまでは、無電柱化した大きな道路を作っています。

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福山から入る道路

 町中は車が何とかかわせるかなという道路が何本か通り、あとは細い路地です。狭い範囲にたくさんの宗派のお寺があります。瀬戸内海の中間にあって栄えた港町だったことがわかります。

 圓福寺(大可島城址)、鞆の浦歴史民俗資料館(城址)、いろは丸展示館、保命酒鞆酒造と見て歩きました。

 「いろは丸展示館」でこの事故を初めて知りました。幕末、鞆の浦の沖合で、坂本龍馬海援隊が借り上げていたいろは丸と紀州藩の船が衝突していろは丸が沈むという海難事故です。鞆の浦住民の有志が、町おこしの一つとして、いろは丸の残骸を調査し、引き上げた遺物を展示しています。

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坂本竜馬の人形

 「歴史民俗資料館」は鞆城址の跡地にある立派な建物ですが、もう少し鞆の浦の全体の歴史(古代~現代)と瀬戸内の海上輸送の中心地であった地理的要因などを絡めた展示が欲しいと思いました。

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入り口にあった御殿飾り

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鞆港

 保命酒は、鞆の浦の名産で、生薬を溶け込ませたお酒です。健康にいいということで買って帰りました。

 午後は岡山県笠岡市へ向かいました。福山のもう一つの顔であるJFEスチールの巨大工場群を抜けて、笠岡ベイファーム道の駅で昼食を食べて、カブトガニ博物館、笠岡市立竹喬美術館に行きました。

 帰りは3時ぐらいに出て、岡山、姫路ぐらいまで順調に来ましたが、高砂あたりで事故車両があり大渋滞で、家に帰りついたのは結局7時前になりました。

 カブトガニ博物館」はなかなか面白い展示でした。カブトガニの生態が中心ですが、古生代からのざっとした生物の変化を映像で見せてくれました。そしてカブトガニの生育も画像が丁寧に作られています。でももう少し大きくしてほしいものです。

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カブトガニ、クモやサソリに近いそうです。

 「市立竹喬美術館」は、笠岡出身の日本画家、小野竹喬を中心に展示してあります。この日は特別展示で「瀬戸内の日本画家たち」がありました。小野竹喬を初めて知りました。

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笠岡市立竹喬美術館

 広い立派な建物の美術館でしたが、中身がちょっと乏しい感じです。いちば印象に残ったのは橋本関雪の玄猿の絵でした。

     今回は一泊二日の短い旅で、資料館博物館等を8館ほど回りました。いずれも立派な建物でしたが、中身ももっと深みのあるものにしてほしいです。もしかしたら学芸員が十分に配置されていないのではないかと思いました。

食事の写真を載せておきます。

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峠下牛(たおしたぎゅう)

これは竹原のブランド牛でメス牛の肉です。柔らかくておいしい。

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朝食です。

 

西神ニュータウン9条の会HP2021年3月号

標記のHPが更新されましたので紹介します。ぜひご覧ください。

西神9条の会 (www.ne.jp)

少しだけ、中身も書いておきます。今月は9編のエッセイと1つの写真です。

9条の会HPですが、書かれている内容は、平和や政治の問題だけではなくかなり多彩です。気軽に読めるものが多いですよ。しかも今月は少し編集にも変化がありました。

先月あった総会の議論を、さっそく反映していただいています。

「マリさんのパリ通信」は25回目です。異国の日常がリアルにわかるので人気があるようです。 今回がコロナ禍の大学生救済でした。

冤罪の再審の問題や、コロナの現状分析などはカタイ話題ですが、松本孑孑さんという訪露の俳人の紹介があり、名女優・太地喜和子さんとタイムリーな「分極社会アメリカ」の本の紹介、私は映画『すばらしき世界』を書いています。そしていつもの弁護士さんによる法制度の話です。

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最も9条らしい伊東さんの「中国・北朝鮮・韓国と私たち」は14回で、今回が終わりということです。HPでは遡ってすべてが読めますから、まとめて読むことができます。私は伊東さんの意見に共感しています。

それから写真のコーナーができました。「西神の野鳥」です。今月は西神中央公園にいたカワセミです。Googleなどで「西神 野鳥」で検索するとこのHPが出てきます。このHPを訪れる人が増えるの良いですね。

2021年2月に見た映画その1

『天国にちがいない』『存在のない子供たち』『聖なる犯罪者』『すばらしき世界』『鬼滅の刃 無限列車』『そして誰もいなくなった13日までに見た6本です。その後に『あなたの名前が呼べたなら』『秘密への招待状』『花束みたいな恋をした』と3本で今月も9本でした。先に6本紹介します。

『天国にちがいない』

 さっぱりわからない映画でした。

チャップリンの再来と言われるエリア・スレイマンが監督、脚本、主演を務めます。彼が新作映画の企画をもって、イスラエルのナザレを出て、パリ、ニューヨークを訪れます。彼の視点からナザレの田舎のようす、大都会の人間たちが描写されます。奇妙な感覚は伝わってきましたが「よさ」はわかりません。

『存在のない子供たち』

 レバノンベイルートに住む貧しい家族の話です。やせっぽちで尖った感じの少年ゼインが両親を裁判所へ告訴するところから始まります。彼は「僕を生んだ罪」だと言いました。

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 原題は「カペナウム」です。付けた主旨はよくわからないが、新約聖書に出てくる町の名前です。イエスが宣教活動し、そして滅びると予言したと書かれてありました。

 映画はゼインがどのように生きてきたか、日常生活を描いていきます。まるでドキュメンタリーのようですが、劇映画です。

 彼は12歳と言いますが、栄養失調のためか、やせていて小柄です。しかも出生の届けもないままに育ちました。学校に行くこともなく、日々、多少のお金を稼ぐために働いています。近所の店の手伝い、町ゆく人に商品を売りつける等の雑用で小金を稼いでいます。

すぐ下の妹は、お金のために結婚を強いられて、しばらくして死にました。

 次々と彼をめぐって色々な子供や大人が出てきます。これが中近東のスラムの実態だというようです。

 妹を売られたゼインは親に絶望して、家を出てエチオピア移民の不法就労の女性と知り合います。彼女の赤ん坊の世話をしますが、ここにも大人も子どもも不幸な生活があります。

彼女はお金を稼ぎ、故郷の親に仕送りをしています。不法就労で、彼女が警察に逮捕されて帰ってこなくなり、お金もなく面倒を見切れなくなったゼインは、赤ん坊を、養子を斡旋する男に売り渡しました。

 裁判所で「世話ができなければ子どもを産むな」とゼインは絶叫しました。 

 中近東とまったく状況が違う日本ですが、なぜか共通するものを感じます。寺脇健がプロデュースした『子どもたちをよろしく』を思い出していました。いじめの問題と子どもたちの親の状況、貧困問題がつながっているという映画でした。

『聖なる犯罪者』

 同じような不良少年を殺して少年院に入った少年ダニエルは、院内のミサを手伝ううちに、神父になりたいと思います。しかし前科者にはその道は開かれていません。

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 仮出所して、仕事を紹介されて田舎の町に行ったときに、新任の神父に間違われます。それを幸いに、神父に化けて、教会に入り込みます。彼の型破りの神父ぶりに町の人は大喜びです。

 しかし彼が少年院上がりの偽神父だとばれる日が来ます。

 小さな町ですが、大きな交通事故があり、その加害者の家族は町から排除され、被害者家族からに憎まれ、大きな溝がありました。そこにダニエルは手を差し伸べて、両者の関係修復を試みようとしました。過去の過ちを神は許す、と言う主張を感じます。

 主人公のキャラクターは複雑です。少年院に戻ったダニエルは、かつて殺した少年の兄と殺しあうような強烈な殴り合いをしました。そして終幕、カメラは町の教会へ切り替わりました。

 実話に基づく映画です。カソリック信仰の厚いポーランドならではと思いました。

『すばらしき世界』

 西川美和の脚本、監督、主演は役所広司、原案は佐木隆三「身分帳」です。

若いころから暴力団に所属して前科を重ね、ついには殺人を犯した前科者が、出所してきて堅気の人生を生きようとする映画です。西神ニュータウン9条HP3月号に書きます。

面白い、いい映画です。

鬼滅の刃 無限列車』

 観客数2400万人を超えた、興収も『千と千尋の神隠し』を超える365億円で歴代1位、社会的現象となったので見ました。しかし、がっかりしました。私にはこの映画の魅力が全く見えませんでした。

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 絵がきれいなわけでも、奇想天外のストーリーがあるわけでもなく『ドラゴンボールZ』のようなひたすら、鬼と鬼滅隊のマンツーマンの戦いがあるだけです。鬼は人間を襲い食べるという設定のようですが、バリバリと頭から食べるというようなシーンはなくて、ひたすら戦いです。

   戦いがメインなのですが、スピード感あったり変幻自在にというのはありません。彼らの体や剣の動きが描かれるのではなく、術を唱えて剣を振ると、空間に電光、炎、水等が走るというものです。

鬼と鬼滅隊のキャラクターも、今までの漫画などで作られたものと似ています。その人間性は懐古的保守的です。

新たなものがない、と言うのが特徴です。

そして誰もいなくなった

 アガサ・クリスティ原作、1945年制作のルネ・クレール監督のミステリー映画です。離れ小島には、招かれた8人の客と彼らの世話をする2人の使用人がいました。彼らは全員、過失もしくは事故、あるいは故意に人を殺したが、法で罰せられていない、と言う秘密を抱えていることが、最初に暴露されます。

そして彼らは「10人のインディアン」の歌をなぞるように、一人一人殺されていきました。小さな島には10人以外は誰もいません。するとこの中に犯人がいると、お互いに疑心暗鬼になっていきます。

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殺害のシーンとかは描かれず、登場人物それぞれの人間像が描き分けられる上品な映画です。最初はわからなかった人間関係が、一人ずつ殺されていくたびにわかってきます。

小説と映画は結末を変えていますが、ミステリー映画として上手に作っています。さすが名匠ルネ・クレールと言う映画でした。

 

『おとうふコーヒー』感想

神戸演劇鑑賞会1月例会(125日(月)、劇団銅鑼)

様々な人生を見せた芝居

 豆腐とコーヒーが認知症予防に効果があると知りました。そういう題名です。でもコーヒーを飲みながら豆腐を食べるのは、もうすでに認知症も深刻でしょうね。この芝居の中心人物、ふみ子さんは美味しそうに食べていました。

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 特別養護老人ホーム「さんぽ」で永谷ふみ子さんの「看取り」がある夜、大きな台風が襲っていました。その一晩の出来事です。

 舞台は、その日2017917日を起点に、その1年前2年前3年前4年前と時間を行き来して、『さんぽ』にかかわる人々の素顔が次々と紹介されていきます。

    出てくるのは、入居者のふみ子さんと元消防士の金山泰司さん、施設に来ているボランティアの女と男、FTMのふみ子さんの孫・瑞樹くん、慌て者で空気の読めない民生委員・旗本さん、近くの専属医、そして施設長などの職員4人がいます。

 1年ごとに切り替わる舞台で、彼らのエピソードと人となりが次々と積み重なるので、ちょっとあわただしい芝居です。全体的にコメディタッチで、面白い展開ですが、残念ながら人物描写の深みが足りません。

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 気になったのは二人、一人はFTMの瑞樹くんですね。それから民生委員の旗本さんです。

    瑞樹くんは、まだ体は変えていないようですが、周囲にカミングアウトしている段階です。「さんぽ」の人たちは誰も気にしないで、受け入れています。なぜでしょう。福祉に携わる人はLGBTに理解あるのでしょうか。

   その一方で、ふみ子さんの看取りに彼女の子どもたち、瑞樹くんの親は来ていません。彼の家族はバラバラみたいで、これをどう見るのか、気にかかります。

    民生委員の旗本さんは、芝居の最初から慌て者で、相手の気持ちを忖度できない人間として描かれます。権力者に対する忖度はみっともないですが、弱者に対しては必要です。それが少し足りない人間性として描かれます。自分の考えを押し付け過ぎる「独善的」な感じでした。それが芝居の最後に彼のこれまでの人生、考え方が告白されます。

   人の役に立ちたいと考える真面目な人間ですが、あまりに一生懸命すぎて周囲に誤解されています。このような人とどのように付き合うのか、考えました。

 この芝居、終の住まいである特別養護老人ホームで死を迎える、ふみ子さん巡って、様々な人間の人生を並べました。それぞれにユニークですが、ちょっと煩雑だとおもいます