社説を並べてみた

 職場に全国紙5紙と神戸新聞があるもので、毎日、ざっとだが目を通すようにしている。もともと新聞はあまり信用していない。震災の体験があるから、そのときの報道のいい加減さで、無責任な新聞報道「被害者」の方の気持ちが少し分かるからだ。
 それでも新聞自らが課した「客観報道、政治的中立」は新聞の倫理観の現われだろうと思ってきた。だから批判的な見方を持っていれば、それなりに役立つを見ている。
 しかし最近の、特に小泉政権のマスコミ操作に踊らされるようになったことと、新聞の広告量や購読料金の下落によって、「売るためにはなんでもあり」という姿勢が強くなったように思う。
 それを具体的事例で調べてみようと思った。研究者ではないし時間もそれほどあるわけではないから、社説の見出し、タイトルを並べてみようと思った。それを眺めているだけで見えてくるものは何かということである。
 期間は9月25日(土)26日(日)27日(月)28日(火)である。ちょうど尖閣列島の事件と大阪高検の証拠偽造事件が報道されていた。
日経
【「筋の通らぬ船長釈放早く外交を立て直せ」】【「途上国援助で世界に仲間を作れ」「リチウム確保に出遅れるな」】【「生物多様性会議で南北対立を深めるな」「豪資源税にどう対応するか」】【「日中外交の巻き返しには何が必要か」「補正は「額ありき」より中身だ」】
読売
【「中国人船長釈放 関係修復を優先した政治決着」「日米首脳会談 重要性が増す同盟の再構築」】【「国連安保理拡大 再挑戦するなら実績上げよう」「イチロー 技と鍛錬が生んだ200安打」】【「「キレる」子ども 暴力の低年齢化にブレーキを」「農業人口急減 バラマキでは止められない」】【「補正予算 与野党連携で編成・執行急げ」「低迷百貨店 復活の成否占う「銀座」の挑戦」】
毎日
【「中国人船長釈放 不透明さがぬぐえない」「日米首脳会談 同盟深化の大切さ示す」】【「大阪地検幹部 組織ぐるみの不正封印」論調観測「中国船長釈放 批判点もトーンも濃淡」】【「国連途上国支援 救える命がそこにある」「イチロー選手 次なる目標が楽しみだ」】【「中国の強硬措置 理不尽な対応はやめよ」「白鴎全勝V4 「国技」支え孤高の連勝」】
朝日
【「中国船長釈放 甘い外交、苦い政治判断」「イチロー ベースボール変革の10年」】【「一括交付金化 まず配分基準を示そう」「再処理延期 核燃料路線の見直しを」】【「核軍縮外交 日本が世界を変える動力に」「日本の農業 安い米で発展する道を」】【「補正予算 与野党協議の良き前例に」「生物多様性 人類の利益へ、議定書を」】
神戸
【「中国船長釈放 政治的判断はなかったか」「イチロー選手 あくなき進化に感服する」】【「野生動物 共存の道、どうすれば」「格差拡大 「貧困」を直視するときだ」】【「銀行新規制 地域金融も無縁ではない」「奨学金 経済的心配をなくしたい」】【「中国漁船問題 日本の外交力が問われる」「片山総務相 論客の手腕に期待したい」】
 こうやって見ると、大阪高検の証拠偽造問題は「毎日」の1回だけで、他は社説に取り上げていない。タイミングの問題もあるだろうが、慎重になっていると思う。権力の中枢部への批判はジャーナリズムの重要な役割だが及び腰だ。
 「毎日」の社説も出だしが「組織ぐるみで不正を封印していた疑いが濃厚」という。この事件がどれほど重要で危険なことかまったく認識がないと思う。検察という国家権力の権化みたいなところで、ほんのわずかでも証拠を偽造、改ざん、デッチ上げがあってはならない、という認識がないのであろうか。もしあるなら、そういうことに、仮に些細なことでも検察という組織は、拒絶反応を示すべきだという、論調になる。それがないということは組織ぐるみであり、しかも日常的に行われていると、断じてもいいのではないか。それを「「身内意識」の弊害」という甘い批判をしている。証拠をでっち上げられてどれほどの冤罪が作られているのか。まったく無辜の国民の人生をぶち壊す、検察の犯罪に対する怒りがまったくない社説になっている。
 新聞は国民の立場ではなく、国家権力に擦り寄っているといわれても仕方がない論調だ。
 最も多く取り上げられたのは尖閣列島の事件だ。今後、こういうことをなくしていくために「日経」や「読売」は日米安保と軍事力増強をいう。領土問題でも「安保の対象」というアメリカのお墨付きを持ち上げている。この新聞が財界の広報部であることは広く知られていることだが、これが財界の方針だろうか。
 しかし普通に考えて、この問題で「政治的判断」と「中国の圧力」がキーワードになっているが、それに対抗するためには、軍事力や核兵器日米安保の抑止力はまったく役に立たないことがはっきりした。「日経」や「毎日」は背後に中国の軍事力増強があるという。だとしても、それに対抗するために自衛艦アメリカ海軍が尖閣列島周辺を警備すればいいというのだろうか。「明日は戦争」に踏み込むような対策を採ることを国民は望まない。であるならば、憲法9条の立場でどういう外交ができるのか、中国と世界に対して日本の方針を言うべきだろう。そういう立場で新聞は報道するべきなのに、いつも政府と同じ立場で解決方法を求めていると、馬鹿に見える。
 尖閣列島の領有権は、アメリカに担保してもらわくても、世界に向かって主張できる性格のものである。それをわざわざ日米安保を引き合いに出すと「アメリカの属国」を自分で宣伝しているようなものだ。御用新聞はそんなことには平気なのだろう。
 もう一点は、領有権と漁業問題だ。それは別だろうと思う。この海域は魚の宝庫というが、それならいつまでもそうであるように、日本と中国で守るために協力するべきだろう。