「消費税のからくり」斉藤貴男 講談社現代新書

 「からくり」どころの話ではない。消費税の本質にこれほど迫った本も少ないのではないか。消費税反対の本は何冊も読んできたから余計にそう思う。よく指摘される「逆進性」であるとか、大企業の負担は一切なく、庶民が負担する税というのは、私も一応認識していた。しかし現状においても、消費税がいかに弱いものいじめの税であることまで気が回らなかった、と不明を恥じたい。
 かつて財政担当の神戸市幹部が雑談の中で「財政危機を克服するためには消費費税引き上げが必要」というのを黙って聞き逃していた。彼からすると市民税や固定資産税は減ることはあっても増えることはないという見通しに立っての発言と理解していた。
 「安易だな」と思ったが、反論はしなかった。しかしこの本を読んで、低所得者いじめの不公平税制を越えて、神戸市民の就業形態や産業構造まで変える、極めつけの新自由主義路線の税制であると、私は理解した。この本では断言はしていなかったが、1998年から毎年3万人を越える自殺者を出している現実は、その前年に実施された消費税5%への引き上げとリンクしていると思う。
 今、民主党政権の下で着々と消費税引き上げのレールが引かれている。朝日、読売、日経など全国紙はすべて消費税引き上げをあおり、法人税減税を説く財界の幇間になっている。新聞読者が減るのは当然ではないか。新聞を読む習慣があっても、あんな記事は見たくもない。
 ちょっと話が本の内容紹介から離れてしまったが、この問題に対しては言いたい事が一杯あるので、これはどうしようもない。このブログの主旨である「わがまま気まま」である。しかし、いつまでも私のわがままに付き合っていただけるわけではないので、本の紹介に返ろう。
鵺のような税制
 鵺を知らない人は字引を引いてください。消費税は、間接税という言い方が通っている。負担する人と税務署に納める人が違うという意味だ。だから消費者が負担した税が業者のところにとどまって「益税」となっているという、意図的な嘘がマスゴミで流されている。インターネットでもそういう誤った理解を平気で流している。
 しかし消費税は間接税ではないし直接税でもない、その両方でもある、鵺的だ。この本で示されているが、司法の判断は明確だ。「消費税法等が事業者に徴収義務を、消費者に納税義務を課したものとはいえない」といっている。
 では消費税とは何か。それは「物価」、消費者が税分も含めて、物品やサービスの対価として支払う値段のことだということだ。売り手は仕入れ価格や自分の経費、利益に消費税分を加えて売ることが出来る、ということで消費税を消費者に転嫁しているということではないということだ。この本では転嫁できるかどうかは端的に「力関係」といっている。そのとおりだな。
 だから多くの競争力の弱い中小・零細業者は、顧客や一般消費者に添加できず、利益を削って消費税を払っている。大企業は平気で下請け会社に消費税分を負けさすし、一方で消費者には確実に転嫁する。
 さらにマスゴミは「益税」という言い方で中小・零細業者の攻撃をすることに躊躇はないが、売り上げの中で輸出の多い多国籍大企業が大もうけをする「輸出戻し税」を紹介することはない。
 これは輸出に際して、国内で納税したとみなされる消費税分を還付するという制度だ。トヨタ自動車は3200億円、ソニーは1600億円という規模で、いわば「輸出補助金」のように得ている。
 零細企業は赤字であっても税務署は消費税を取り立て、納税が滞れば差し押さえされるという一方で、大企業には大きな特典を与えられている。
中小零細企業をつぶし、労働者を非正規へと追いやる
 まだまだ紹介したいことはあるが、興味を持たれた方はぜひこの本を読んでほしい。私の近くにいる人はお貸しますのでいってほしい。
 最後に、私が知らなかった問題点をいっておく。一点目は記帳の複雑さ。小さな店では仕入れにかかった消費税を控除するための記帳や領収書の整理が非常に煩雑で対応できない。二点目は派遣労働に支払うお金は消費税控除の対象になるが正規職員の給与は控除できず、消費税を有利に使うには、労働者を正規から非正規に追いやる。三点目、「総合課税・累進課税」「勤労所得軽課・不労所得重課」「最低生活費非課税」の観点から見直せは、約20兆円もの財源が出てくるという。
 菅首相が「消費税率を引き上げても、使い方を間違わなければ景気がよくなる」と消費税引き上げを進めているが、民主党のブレーンの比較的良心的な学者諸先生方(神野直彦、宮本太郎、寺島実郎など)は、それでいいと思っているのか、な。