「科学の落とし穴 ウソではないがホントでもない」池内了 晶文社

 いわゆる科学読み物は昔からよく読んでいた。「ガモフ全集」であり講談社ブルーバックスである。そして相対性理論量子力学を理解することを生涯の課題に掲げているから、その関係の一般読者向けの本は、半年に1冊程度の割合で読んできた。しかしいまだに分からない。特に数式で行列を入れられると理解の範囲を超えてしまう。
 現在も「量子重力理論とはなにか」(竹内薫 ブルーバックス)が途中で止まっている。
 そこで目先を変えて、社会と科学という観点で書かれたエッセイを読んだ、のがこれだ。新聞と雑誌に定期連載されたものを本にまとめたものだが、池内先生の視点は実に鋭いと感心した。
 例えば「『宇宙基本法』の危険性」では宇宙技術の軍事利用の歯止めをはずそうと「非軍事」から「非侵略」への転換が図られたことを見抜き、明確に反対している。現在、民主党が財界の意向に従って武器輸出禁止をはずそうと、平和憲法の精神と相容れないことを臆面といっている。それをまったく批判できないマスゴミと大違いだ。
 技術の二面性(軍事利用と民生利用)にその従事者や一般市民の監視が必要という。「科学者と教養」では「いくら多くの知識の持ち主であっても体制に口裏を合わせるしか能がない人は真の教養人ではない」そして「教養ある科学者が生まれるためには、社会そのものが教養に溢れていなければならない」という。
 そのほかにも「地域自立のための技術」「技術教育の大事さ」「市民と科学、市民の科学」「地域の宝物をこの手に」「公正な科学」などでしめされた科学の倫理は、私の仕事との関係も考えさせられた。
 現在、社会全体でコンプライアンス法令遵守)が強調されるが、本来はモラル(倫理)ではないかと思う。特に地方自治体の仕事では法令をも守ることは当然のことであるが、その抜け道で仕事をしていることも事実である。不正経理と呼ばれることもその一つであろう。ぎりぎりと締め付けることによって、市民のための仕事がうまく出来るかどうか、今一度考えるべきだと思った。そして、大切なことは公務員としての倫理、人間としての倫理をもう一度確かめることではないか、と思う。
 最後に「複雑系としての地球の環境問題」などで、要素還元主義(自然現象を解析するにおいて、より根源的な物質、より単純な系、より理想状態での振る舞いへと帰着させれば問題が明確になり、会も見出しやすいとする科学の方法)一辺倒からの脱却という、ごく普通の感覚の大切さを考えた。
 都市やまちづくりもトータルで見る必要があるということである。道路や土地利用といった一つの要素だけでみると間違ったものになる。都市計画は都市経済と人間生活から考え直すときである。