「夜の橋」藤沢周平 文春文庫

 久々に藤沢周平を読んだ。映画サークルのボランティアスタッフの方が、毎月、時代小説を7,8冊持ってきてくれる。そのうちの何冊かを読むのだが、いつもは知らない作家のものにしている。せっかくだから読みなれたものではないものと思って読む。
 しかし今回、藤沢周平の短編集を読んで、ものが違うと思い知らされた。話全体の面白さ、人物設定、筋の運び等、いくらでも面白さはあるが、今回気づいてのは文章の巧みさだった。台詞も地の文も素晴らしい。他を寄せ付けない。
 とまあ、私が特別に言わなくてもみんな知っていることだ。付け加えて言えば、この本が最初の発行が昭和56年だから初期のものだろうが、言われるような暗さはない。
 今日、あえてこの本について書いたのは、ここに収められている「孫十の逆襲」を映画化しほしいと思ったからだ。これは黒澤明の『七人の侍』を意識してかかれたものと思うが、それに並ぶ面白い時代劇映画になる。どんな話か、簡単に書いてみよう。
 山村に野伏せりが襲ってくるという。隣村から、命からがら逃げてきた者がいる。村を守るために、30年前に朝倉・織田の戦に出た年寄りを中心に、作戦が練られる。
 彼らは隣村に乗り込んで、明け方、一気に勝負をかけて、野伏せりを全滅させる、という話だ。
 中心になる年寄り、孫十の心情が綴られて小説も面白いが、これを『七人の侍』張りの戦闘シーンに撮れば、最高の面白うものになる。
 藤沢周平の筆によるこの場面の描写は文庫本10頁足らずであるが、緊張感あふれるもので、興奮してしまった。
 そうだな、李相日から山下敦弘ぐらいが監督してくれないかな。主演は柄本明かな。