2021年1月に読み終えた本(その1)

『愛ある追跡/藤田宜永』『あおぞら町春子さんの冒険と推理/柴田よしき』『フェイクボーイ・リアルボーイ/たむろ未知』『掃除屋―プロレス始末伝/黒木あるじ』『溢れて/藍川京、草凪優館淳一、牧村僚、睦月影郎』とりあえず5冊を紹介します。あと1週間で読む本は23冊ですが、それは「その2」です。

『愛ある追跡/藤田宜永

 藤田さんの本は「探偵・竹花」シリーズ等を読んでいて、ミステリー系を探して、これもそうかなと思って借りましたが、ちょっと違う感じです。

 獣医の父親を主人公にした4つの連作短編で「男の総決算」「愚行の旅」「じゃじゃ馬」「再出発」です。

 勤務医が殺されて、娘が、その男と不倫関係にあって、殺した容疑者として指名手配されます。彼女は「無実」という連絡を父に入れて行方をくらまし、父は彼女の無実を信じているが、警察より先に探して話をしたいと思って、獣医の仕事を放棄し、精神を病んで入院している妻にも黙って全国を探し始めます。それを警察、定年を直前にした担当の刑事が時々探りを入れてくる、という大枠です。

それぞれ娘を探す行動、旅を続けながら、それ以外の事件が絡む話になっています。まあまあ読ませます。しかし落ちなり、事件の全貌は明らかならない、中途半端に終わります。続きはないようです。

「男の総決算」は娘がデリヘル嬢をしているという情報を得て、父はその店の運転手になり、娘を知っているデリヘル嬢に近づき、彼女の事情が浮かんできます。娘は影が見えただけでした。

「愚行の旅」は友人から三重県伊勢市で娘を見たという情報を得て、父は飛んでいきます。娘は、その昔、麻薬に手を出して姿を消したミュージシャンの所に居ましたが、すれ違うように消えていきます。

「じゃじゃ馬」は、石川県白山市で物産展の売り子をしているという情報でとんでいきます。そこで殺された医師と同僚であったという病院長に会いますが、娘の姿はありません。

「再出発」は群馬県安中市の温泉でコンパニオンをしていたという情報で、再び飛んでいきます。そこで元ヤクザであった爺さんと親しくなります。暴力団も事件に絡んでいるようですが、娘はいません。

 丁寧に紹介しましたが、次の展開はどうなるのか、という期待を持って読みました。殺人事件の全容はもちろん、娘と殺された男の関係すら、はっきりとはわからないままに終わりました。駄作かもしれませんが、引き付ける筆力でした。

『あおぞら町春子さんの冒険と推理/柴田よしき』

 これは柴田よしきさんらしい傑作です。「春子さんと、捨てられた白い花の冒険」「陽平くんと、無表情なファンの冒険」「有季さんと、消える魔球の冒険」3篇の短編で、主人公は、プロ野球2軍選手、園田拓郎と結婚した春子(元看護師)さんです。殺人事件とかはなく、平凡な日常生活の中で出会う、ほんのちょっとおかしなことから、彼女は事件に気付きます。

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 「春子さんと、捨てられた白い花の冒険」は、ごみ捨て場に捨てられた白い花が気になった花子さんは、捨てた男と話をしていくうちにDVで監禁されていた、その妻に気づきます。

「陽平くんと、無表情なファンの冒険」は、2軍の試合を見に来る女性がいつも同じ席に座ることを聞いた花子さんは、街で噂になっている窃盗団に結びつけました。

「有季さんと、消える魔球の冒険」は、引退したプロ野球のスター選手の奥さん、美人の有季さんと知り合いになり、その夫婦の秘密を打ち明けられて、春子さんはより深く人生を考えます。これはミステリーではありません。

3つの話の後で、春子さんは自分の人生を考えずに拓郎の生活を支えるのではなく、自立した人生を考えることが、本当の意味で拓郎を支えることになると、気づきます。

柴田よしきさんの小説は、多彩で幅が広いのですが、いつもそこはかとなく女らしさを感じています。

こんな言葉があります。拓郎が、後輩ですがチームのエース級になっているスター選手から結婚式の司会を頼まれ、断り続けた時に、春子にその男から連絡があり「人生の恩人」と教えてもらいます。

その時「春子は、誇らしさで胸がいっぱいになった。私の拓郎。拓ちゃん」と書きました。

これだけで、私は痺れました。

『フェイクボーイ・リアルボーイ①~④/たむろ未知』

 レディース・コミックの感じですが、結構まじめなトランスジェンダーモノと言ってもいいと思います。

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FTM(体は女、心は男)の薫は、彼(彼女)の秘密を隠してバイク便で働いています。お金をためて、体を男にする手術をしようとしていました。

 それが仕事の最中に麻薬組織の犯罪現場に出くわし、秘密にかかわる証拠物件を預かって、事件に巻き込まれます。

 命を狙われる目にあいますが、職場の先輩・雄大、彼の従妹でジャーナリストのナオコに助けられて、事件は落着します。しかし薫の秘密は二人に知られます。

 ここから話の流れは変わってきて、ナオコが薫を中心にトランスジェンダーのルポを書き始めます。その取材のためにMTF(男の体、女の心)やFTMの話を聞き始めます。薫も雄大も、それに巻き込まれていきました。

 雄大は女の薫に惹かれていきます。男になりたい薫の気持ちも理解しようとしますが、ホルモン治療でひげが生えてきたと薫が喜ぶのを見て、複雑な気持ちです。

       FTMで男の体を得た人、彼が女の時に生んだ娘を、薫が好きになるという挿話もあります。

溢れて/藍川京、草凪優館淳一、牧村僚、睦月影郎

「女陰塚/藍川京」「私が捨てた男/草凪優」「淫欲溢れてやまず/館淳一」「死んでもいい/牧村僚」「女体盛り/睦月影郎」官能小説短編5編のアンソロジーです。

 当然セックス描写が多いですが、一流の作家ですから設定も面白いです。「私が捨てた男/草凪優」は、うだつの上がらないグラビアアイドルがAV女優になる話。「淫欲溢れてやまず/館淳一」SMで結びついた夫婦。「死んでもいい/牧村僚」は、末期がんになってあこがれの義姉と関係を持つ男。

『掃除屋―プロレス始末伝/黒木あるじ』

 50歳直前のロートルプロレスラー、ピューマ藤戸を主人公にした連作短編「造花」「不運」「三巴」「好敵手」「捕食者」5編です。

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ピューマ藤戸は、かつては大きな団体のスターレスラーでしたが、今はフリーになって前座のコミカル・レスリング等で地方巡業を回っています。試合中に親友でライバルだったレスラーを昏睡状態に落としたことが直接の原因です。

彼の裏の仕事は、高い報酬をもらってプロレスの試合中に相手の体を故障させ、長期療養か廃業に追い込みます。レスラー仁義に外れる所業をした者、プロモーターのいうことを聞かない外人レスラー等が対象です。ガタガタの体ですが、ここぞというときに力を発揮する男という設定です。

私はプロレス好きでした。力道山ジャイアント馬場アントニオ猪木大木金太郎吉村道明豊登の時代から、鶴田、坂口、藤波、天竜、長州、タイガーマスク、川田、小橋、グレート・サスケぐらいまでは知っていますが、今はほとんど見ていません。

だからこの本が目に留まって読みました。評価はまあまあといったところです。深い人物描写やミステリー的などんでん返しまではいきません。

 

2020年12月に読み終えた本その2

池上彰の世界の見方インド/池上彰』『安倍政権は「倒れた」が「倒した」のではない/松竹信幸』『「世界」12月号』『ナンバー/相場英雄』『林家たい平快笑まくら集/林家たい平』後半は5冊ですが、中身が濃いくて、ちょっと長い紹介になりました。

池上彰の世界の見方インド/池上彰

2月例会『あなたの名前が呼べたなら』を担当しています。インド映画なので、機関誌でインドの社会全体を紹介する文章を書くために本を借りました。これは2020年に出た本で、池上彰さんが中学生に特別授業をしたものを本にまとめたもので、わかりやすいです。しかしこれだけでは足りないので、昔に買っていた『インドを知る事典』やインターネットの記事などを使って書きました。その記事は、別途載せます。ここでは標記の本を紹介します。

印象はインドの全体像ですが、中学生相手のためか深部に触れていない感じです。でもさすがに説明は上手だと思います。

カーストをヴァルナ(身分)と結びついたジャーティ(職業集団)の上下関係を作るインドの社会制度と説明しています。憲法では差別を禁じて平等を謳っているが、カーストを前提とした社会を想定していることをいいます。結婚という個人の人生、「家」家族の重要事においてそれは重みを増します。都市よりも農村部でそれは顕著です。

インドの経済成長の特徴であるIT産業は、新しい職業だからカーストの枠外で、能力さえあれば、誰でも成功することができる職業だという面があります。

『安倍政権は「倒れた」が「倒した」のではない/松竹伸幸

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 この本には二つのことが書かれてありました。一つは安倍政権がなぜ78か月も持ったかを分析し、もう一つは、それを倒すために築かれている野党共闘にはどんな政策が必要か、特に防衛政策について、様々な思考を巡らせています。

 ここに書かれてあることが、正解であるとか、問題の全てであるとは思いませんが、これだけ率直にまとまった文章に書けるのは松竹さんだけだと思いました。

 安倍政権が長く続いた要因は、21世紀に入って変化してきた政治情勢、日米関係に対応してきたことだと書きます。

岩盤支持(新自由主義の保守)の上に、それ以外のリベラルも取り込んでいたためだと書きます。例として靖国参拝は政権直後にしただけで、後はいかなかったことや、戦後70年談話は、形として村山談話を踏襲し、従軍慰安婦問題でも河野談話を否定していないこと等、イメージとしてある排他的ナショナリストではない身のこなし方をしています。

 アベノミクス、秘密保護法、集団的自衛権容認、共謀罪、沖縄基地など、そして彼の個人的な属性から出てきたモリカケサクラ問題の露骨な利益誘導など、そして高級官僚の忖度行政、どれもひどいもので日本の民主主義を破壊してきました。

 それらを覆い隠して来たのが「やってる感」の演出で、官製春闘働き方改革、女性活躍社会、地域創生もそうだろうが、中身は全くないか、看板倒れですが、それでも御用メディアなどの効果で国民の支持を得ています。

 そして野党共闘を進めるために、政策共闘の可能性をいろいろ考えています。

 民主党政権の失敗は「未熟」よりも「覚悟のなさ」であり、小泉内閣郵政選挙を事例に誠治をかえる「覚悟」が必要と指摘します。

 野党共闘は国会共闘、政策共闘、政権共闘とあり、新安保法制反対闘争で経験を積んできていますが、これから政権に近づくためにもっともっと政策のすり合わせが必要です。

 立憲民主党日米安保容認しながら核兵器廃絶条約に賛成できるのか、共産党専守防衛

を認めるのか、です。共産党は連立政権下では自衛隊を認めるが、党自体の考え方は「9条の完全実施」で、それで政権運営ができるかです。

 その他、消費税問題でも違いがあります。

 小見出しに「バラバラ」「多様性の統一」に変える、とありましたが、野党共闘は、昔の派閥政治の自民党よりもバラバラですから、それが魅力でもあります。この本は薄い冊子みたいなものですから、色々な分野の政策検討の本がつくられたらいいと思います。

『ナンバー/相場英雄』

「保秘」「十二桜」「あたり」「へそ」4編の短編集です。ナンバーとは警視庁捜査2課、知能犯担当の刑事たちのことを言うそうです。

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 これは所轄から警視庁捜査2課に配属された西澤警部補の成長を描きます。その後『トリップ』『リバース』とシリーズになっています。

 殺人や強盗などの捜査1課の強行犯担当と違って、2課は汚職、横領、背任、詐欺、選挙違反、不正融資などを担当します。事件が起きて犯人を捜すというよりも、密告などによって犯罪の存在を知り、犯人の当りをつけて、その証拠を固めるような仕事です。その証拠も

 そのために「保秘」が絶対的な鉄則です。何の案件か、どのあたりを動いているか、犯人やその周辺人物はもちろん、仲間内の同僚にすら秘密にするという言葉です。そして2課以外の人は彼らをシロサギと呼ぶとも書いてありました。その意味するところは、この本を読んむとよくわかります。 

林家たい平快笑まくら集/林家たい平

 副題に「テレビじゃできない噺でございますが」と付いています。それは寄席の雰囲気に応じてマクラを話すから、という意味でしょう。放送できないような危ない話をするわけではありません。多少、落語界の楽屋裏をしゃべっているだけです。

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立川談志のマクラとちがって、自分の考えを押し付けるのではなく、本編への導入を考えたオ-ソドックスなマクラで、たい平の人柄がよくでていました。

 横浜にぎわい座で独演会を続けているようですが、20082015年のそこでの噺です。

 大体が自分が体験したこと、失敗談だとか、噺家仲間のおかしな言動などを多少膨らませて面白おかしく話しています。でもこんなのもありました。

「個人の正義でも何でも、正義を振りかざせば、正義同士がぶつかって争いになる。戦争だって国と国の正義がぶつかって起きるでしょ。正義というものも、少し冷静に考えなければいけないな、そんな風に思います」

『「世界」12月号』

 特集1「コロナ災害下の貧と困―自助か連帯かー」雨宮処凛、山家悠紀夫、後藤道夫、田畑博邦等。特集2「学術会議任命拒否問題」でした。保阪正康上野千鶴子杉田敦前川喜平等で、それぞれりっぱな人が意見を表明しています。それ以外にも面白い論文がありました。

「権謀の人(上)/斎藤貴男

 一番面白かったのがこれです。JR東海名誉会長、葛西敬之を安倍、菅と続く最悪内閣の指南役であったと告発する記事です。

 集団自衛権の等の憲法解釈は内閣法制局に委ねられているから、局長を政権に従う人間に変えればいい、という報告書が財界の調査会報告書に書かれていて、その委員長が葛西氏であったということです。

議院内閣制のもとの首相は、事実上立法権もにぎっていると強調しています。最高裁などの人事権も内閣が握っている、と書いています。憲法の基本理念である3権分立を形骸化する考え方です。

安倍首相はこの考え方を鵜呑みにして、短絡的に自分が立法の長であるといい、検察も含めてすべてを支配できると考えていたのでしょう。

 葛西が頭角を現すのは国鉄の分割民営化です。「国鉄改革」と称して、反対する幹部を追い落とし、動労などを抱き込み、マスコミを操って世論操作をし、国労を標的に徹底的にたたきます。

 それに協力した労働組合をつぶそうと画策しています。

 JR東海という私企業が始めたリニア新幹線をいつの間にか国策事業に出来たのも、葛西と安倍政権の関係です。

「『パラサイト』に結晶したポン・ジュノの作品世界/玄武岩

 『パラサイトー半地下の家族』で、カンヌ映画祭グランプリなどを取って、韓国映画の巨匠となったポン・ジュノの評論です。「世界」誌から映画紹介、解説が無くなって長いですが、こういう企画を連発してほしいものです。

 ポン・ジュノ民主化革命を闘った世代の後、民主化された韓国で映画を撮り始めます。エンターテイメントと社会性を両立させる作品(『殺人の追憶』『母なる証明』など)を撮り続け『パラサイトー半地下の家族』がその結実です。 

 グローバル資本主義の寓話と評価しています。

片山善博の『日本を診る』学術会議会員候補六人の任命拒否事件を診る」

 片山さんは、世評の焦点を短い文章で的確に書いてくれますから、だいたい最初に読みます。今回は学術会議の問題です。

 まず「問題」と書かずに「事件」と書いています。「違法な任命」という明確な認識です。

そして菅総理は「説明責任能力の欠如ないし説明責任に対する認識が著しく薄い」と喝破しています。

 特集も面白いものでしたが、それ以外にもいろいろと勉強になりました。

1月例会学習会「コロナ禍から見えてきた医療・介護の現状」

 112日、門泰之(兵庫県医療労働組合連合会書記長)さんから、表記の話を聞きました。

 1月例会は、フランスの看護師さんを養成する学校の150日を撮ったドキュメンタリー『人生、ただいま修行中』です。彼らが、医療の勉強し現場に立ち会いながら、どのように成長していくかが描かれています。

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 翻って日本の医療現場について、どうなのか、を聞きたいと思いました。

門さんは、病院や介護施設で働く職員、医師、看護師、検査技師さん等で作る労働組合の役員です。コロナ禍の日本の医療・介護の現場はどのようになっているのか、彼らがどういう環境でどんな思いで働いているのか、そして日本全体の医療・介護の状況について、わかりやすく話していただきました。

貧弱な医療体制

 医労連が主要国の医療労働者の労働条件を調べ始めたのは21世紀に入ってからのようです。社会全体の医療制度が違う下で単純な賃金などの比較では、わからないことが多いと言います。

 皆保険制度のない米国、ほぼ税金などで賄われる北欧や西欧、皆保険だけれども個人の負担の大きい日本という制度の違いがあります。しかし医師、看護師の数を見ると、労働環境の格段の違いを理解しました。これは患者のケアに直結します。

 ベッド100床当たり日本は医師19人看護師87人、仏(52168)独(52159)英(108306)民間保険の米国(94420)です。

 私は、このコロナ禍で、英国などの感染者、死者の数が日本と比べて一桁多い状況を見て、いつも不思議に思っていました。日本は今でも「医療危機」と言っています(実際はもう崩壊していて「命の選択」が始まっているとも)が、西欧諸国の医療機関は踏ん張っています。それはこのような根本的な体制が分厚い、という違いがあります。

 これまでも基幹病院の医師や看護婦などの忙しい実態が報道されたりしてきましたが、それに加えてコロナ禍ですから、医療労働者は大変です。

 しかも驚くべきは、自公政権はこの貧弱な医療体制をさらに削減する「地域医療構想」を、このコロナ禍でも進めようとしていることです。新たなウィルスによるパンデミックの可能性を考慮するように言いながら、基本的な枠組みは変えない、といいます。騙しのテクニックです。

エッセンシャルワーカー

 大変な状況の中で働き続けている医療労働者に感謝と励ましをしようと言う動き、声もありますが、処遇は連動していません。

 コロナ患者を受け入れる病院は、その他の患者が減り経営が苦しくなる仕組みになっています。それでボーナスを大幅に減らした病院もありました。 家族に感染させないために、何か月も家に帰らずに働く人もいます。

 同じ医療機関でも、クラスター発生した病院などの職員の診察拒否がありました。感染を恐れて、彼らを中傷し排除するような心無い言葉が飛び交っています。

 エッセンシャルワーカーと言う言葉が急に出てきました。「社会に不可欠な労働」と言う意味で、コロナの感染リスクを持ちながら働く人々です。医療や介護、運輸・公共交通、スーパーの店員、ごみ収集、教育・保育の労働者、日常生活を支える仕事です。でも彼らの処遇は恵まれてはいません。

 最後に門さんの言葉で印象に残ったことを書いておきます。

 各国を調査して共通していたのは看護・介護の労働者は下層階級出身者が多い。

 ワクチンはこわい、人体実験のようなもの。

 映画サークルの例会は1516日です。以下のHPを参照してください。

神戸映画サークル協議会(神戸映サ) (kobe-eisa.com)

 

 

『テルアビブ・オン・ファイア』の感想

パレスチナの現代史を考えながら映画を振り返った

 この映画の中心に座るテレビドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」は、なぜ第3次中東戦争を舞台にしたのか、そして映画は何を訴えたのか、考えてみました。

    テレビ局はヨルダン川西岸地区パレスチナの中心都市ラッマラにあり、主人公のサラームはエルサレムに住んでいます。彼は検問所を経てテレビ局に通い、毎日イスラエル軍のチェックを受けています。日常生活を制約する起点が第3次中東戦争です。

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ドラマの大筋は、第3次中東戦争の直前、パレスチナ解放戦線の女性闘士マナルがフランスから来たユダヤ人ラヘルに扮して、イスラエル軍の将軍イェフダに接近して軍事機密を盗み出そうとし、そのために、ラヘルはイェフダを騙して恋愛関係をつくりだしますが、いつの間にか本気なってきて、その行方はどうなるか、です。

視聴者からは、彼女がどこまで本気かよくわからない状況で、女心の揺らめくメロドラマにも見えるようです。マナルには、同志で恋人のマルワンがいますから、不倫の様でもあります。

 だからパレスチナ制作の反イスラエルドラマなのに、ユダヤ女性も「面白いメロドラマ」としてみている、という設定です。

67年から現在まで

 ドラマの時代と現代の関係を簡潔に整理してみると、以下のようになります。

 第3次中東戦争19676月、たった6日間で終わった戦争です。イスラエル空軍がシリア、ヨルダン、エジプト、イラク等を相手に先制攻撃を仕掛け、アラブ側の空軍を徹底的に叩き壊滅させました。

そしてエジプトからシナイ半島ガザ地区、ヨルダンから東エルサレムヨルダン川西岸地区、シリアからゴラン高原を奪い取りました。

第4次中東戦争197310月)後にシナイ半島はエジプトに返還しましたが、その他は現在に至るまで50年を超えてイスラエルが軍事占領しています。これは国際法違反で、国連は非難決議、撤退勧告を行いますが、イスラエルはそれに全く応じません。

国連、国際社会は、例えば繰り返しの非難決議、経済封鎖などといったイスラエルに有効的な懲罰を与えていません。逆に日本のように、先進資本主義国はこの国を有望な投資先と見ています。これは米国が大きな力でイスラエルを庇護しているからです。

50年以上にわたる長期の軍事占領のもとで、1948年のナクバ(大破局)で生まれた70万人の難民は、その子孫も含めて500万人に膨れ上がり、人権もない社会生活、住環境の悪化で、パレスチナ人は疲弊しています。しかも難民キャンプは、イスラエル軍だけではなく、アラブ諸国の排他的民族派からも襲われてきました。

オスロ合意(1970年)で、イスラエルパレスチナの2国共存、ヨルダン川西岸とガザをパレスチナ領と認め軍事占領の撤退が謳われますが、それはすぐに反故にされました。現実はイスラエルの軍事占領が続き、入植地を広げ、分離壁と検問でパレスチナ人の日常生活、社会経済活動そして人権が、武力によって大きく制約され、抑えつけられています。

パレスチナの中心都市ラッマラであっても映画のようにイスラエル兵が銃をもってうろつき、必要であれば市民を拉致します。

狭いガザ地区は巨大な監獄として、人や物の出入りを規制されています。食料、物資、エネルギーなどが著しく不足し、市民は悲惨な生活に陥っています。

さらに現在ではパレスチナを支援してきたアラブの中近東諸国がイスラエルと国交を樹立する等の「アラブの大義」の団結にひび割れが生じています。

このような現在の厳しい情勢の起点が第3次中東戦争です。

ドラマの行方と映画の展開から

検問所の所長アッシから提案されるアイデアを活用して、サラームは脚本家の椅子に座ります。

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サラームの脚本に対して、前の脚本家は「ホロコーストは、イスラエル寄りの言葉だ」と批判しますが、プロデューサー等からは、リアルなイスラエル将軍像であり、ドラマに緊迫感を持たせた、と評価されたのです。

ドラマの結末を「イェフダとラヘルを結婚させろ」と迫るアッシに対し、サラームは「それは非現実的だ」として別のストーリーを考えました。

イスラエルの将軍とパレスチナ解放戦線の闘士の結婚=両国の和解と見て、視聴者やスポンサーの支持を得ないと考えたと思います。

二人の結婚は非現実的だが、イェフダをイスラエルの裏切り者にして二人は結び付けることができました。アッシに対してはテレビに出演させる奇手で納得させました。

ドラマはシーズン2へと続き「戦いは続く」と新たな物語に繋げ、パレスチナ解放戦線のあきらめることのない戦う姿勢をみせました。

映画ではアッシをイスラエル軍の将校からパレスチナの俳優に転身させます。これは二人の結婚以上に非現実的です。

映画のテーマはドラマの行方と、もう一つはサラームの成長、変化です。頼りなかったサラームは、パレスチナに留まって恋人になってくれたマリアンと一緒に暮らすと決めます。

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ドラマと同様に「戦いは続く」という終わり方です。現実の厳しさ悔しさを味わっているパレスチナの人々とともに立つことを明確にしました。

そしてドラマでも映画でも、パレスチナ人が受け入れるユダヤ人は、イスラエルの軍事支配と領土拡大を続ける祖国と手を切った人間と主張しています。

1948年ナクバではなく、第3中東戦争に拘るのは、そこをパレスチナ原点に考えたからではないかと思いました。

担当して

今回『テルアビブ・オン・ファイア』を担当して改めて気づかされるのは、日本のマスメディアがパレスチナの現状をほとんど報道していないことです。

パレスチナ1988年に独立宣言をしましたが、現在も日本は国家として承認していません。自治政府という呼び方です。国土としてガザ地区ヨルダン川西岸地区を図示しますが、50年以上イスラエルが軍事占領し、検問や分離壁等、基本的人権も保障されない弾圧の実態は報道しません。

今回の上映がそれらをわかりやすく描いたとは言えませんが、岡真理先生の学習会を含めて、大きな成果であると思います。

 

2020年12月に見た映画

『ハード・デイズ・ナイト』『罪の声』『サイレント・トウキョウ』『恋愛準決勝戦』『ニューヨーク親切なロシア料理店』12月は5本しか見ることが出来ませんでした。月末は年賀状作成と家の片づけに追われて、映画館に行く暇がなかったというところです。でも100本を越えたので良しとしましょう。

『ハード・デイズ・ナイト』

 1964年公開のビートルズ映画、旧題は『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』。彼らがまだ20代前半、英国から猛スピードで走り始めて、段々と世界の音楽、若者の文化に大きな影響を与え始めた頃です。私はまだ小学生で、この映画もビートルズ自体も知りませんでした。

彼らは70年に解散しますから、グループとしては10代後半から30才までが活動期間です。若くて短いですが、世界の音楽史(他の文化や生活スタイル、若者の生き方もそうかもしれない)に大きな影響を与えたバンドです。ひとり一人が才能豊かだったのでしょう。

映画自体はビートルズの魅力を醸し出しているかと言えばそうではないと思います。映画の後半は彼らのコンサートですが、活動初期ですから、私が知っている歌、例えば「イエスタディ」「レット・イット・ビー」等がなく、恋の歌が中心でした。

ですから映画を見た人たちも、当時を懐かしみながら、あるいはビートルズは、一人一人の人生にとってどんな意味を持っていたのかを感慨をもって見たのではないか、と思いました。

『罪の声』

塩田武士の同名の小説の映画化です。1984年、実際に合ったグリコ森永事件をモチーフにしたミステリー仕立てで、未解決で謎の多い実際の事件を推理して構成したものです。

面白かったです。f:id:denden_560316:20200624104942j:plain

実際の事件で、子供の声を録音したテープが脅迫に使われたことを知った作者が、見事に社会性を持った犯罪小説として書き上げています。権力に挑戦する犯罪にはしていません。全体的に複雑ですが破綻がありません。

映画は2か所から動き始めます。一つは京都のテーラーの主人(星野源)が偶然、子どもの頃の声が入ったテープを見つけて、そこに30年以上前にお菓子メーカー(映画では「ギンガ」「萬堂」で「ギン萬事件」)を脅迫した未解決事件に使われた脅迫の声を聞きます。それを録ったのは誰かを探し始めます。

もう一つは新聞社です。特集企画でギン萬事件の総括をしようというものです。この時の報道は、社長の誘拐事件の後に、お菓子に青酸カリを仕込み、企業や消費者を脅した犯人に踊らされます。マスコミは犯人の思うがままに報道させられた、という反省があります。

社会部から外され、文化部で腐っている記者(小栗旬)が動き始めます。

二人の行動は別々に、当時を知る人を探して話を聞くことから始めます。

テーラーの男は、父の弟、叔父が録音した可能性が高いと考えます。小さい時に分かれて今はロンドンに出て音信不通である叔父の正体を追っていきます。

記者は、新聞社にためてあった資料で犯人に接近します。新聞社に通報した男にもう一度、話を聞きに行きます。

そしてこの二人が同じ料亭にたどり着いたことから、お互いに協力するようになります。そこから一気に犯人像、犯人グループに接近します。

脅迫テープの声は3人の子どもでした。後半は、テーラーの男以外の二人の子どもの行方をたどっていきます。大人たち、親がかかわった犯罪によって、子どもに過酷な運命が降りかかったことを明らかにしました。

あまり後味がよくありません。お金の受け渡しのない頭脳的な犯罪、株価操作を企てましたが、それでは分け前が少ないということで、最後は暴力団が絡み、何人かが殺されていました。二人の子どもの人生も悲惨でした。

マスコミを利用した劇場型犯罪を描く、痛快な犯罪映画にならなくて、子どもを巻き込んだ許せない犯罪でした。作家の姿勢がよく出ていました。

『サイレント・トウキョウ』

これはクリスマスの日に東京の繁華街に爆弾テロを仕掛ける映画でした。テレビで首相が「日本を戦争ができる国にする」と公言する社会です。これに反発した犯人は、首相とテレビ対談を要求するのです。しかし首相は「テロに屈しない」と言って対談を拒否します。

最初の爆発は光と音だけで脅します。次は本当に爆発させると言いますが、爆弾を仕掛けた渋谷駅ハチ公前スクランブル広場には大勢のやじ馬が集まっています。

そこで本当に爆弾がさく裂し多くの死傷者が出ました。

映画全体は、ちょっと現代日本を風刺しています。馬鹿なリーダーと「平和ボケ」の人々です。

原作は秦建日子ですが、映画は人間関係等を端折って99分という短さです。犯人は元自衛官の妻で、夫は爆弾処理の専門家、アジアの紛争地に行ってトラウマを抱えて戻ってきて自殺をしています。彼女は夫から爆弾の作り方を教えてもらっていたのです。

いわば戦場、戦争の残酷さも知らない首相が「戦争をできる国」にすると聞いて、怒りで爆弾テロを仕掛けたのです。でもそれで政治の流れや社会が変わったかと言えば、そうは描きません。テロの無力さを描く映画でした。

石田ゆり子佐藤浩市西島秀俊などが熱演していますが、何か空回りの感じです。

『恋愛準決勝戦

 1951年の米国映画です。フレッド・アステアとジョーン・パウエルなどのダンスが楽しい映画でした。それだけ。

『ニューヨーク親切なロシア料理店』

これは面白い、私の好きなタイプの映画です。邦題に惹かれて見ましたが、予想とは違いました。原題は「The Kindness Strangers」で、出てくるのはたしかにちょっと変わった人々でした。

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警察官である夫のDVから逃げてきた母と子どもたちを、ニューヨークのロシア料理店にかかわる奇妙な人々が助けるという話です。

お金も持たず、着の身着のままで子どもを車に乗せて、田舎からニューヨークの大都市に逃げてきた母クララと二人の男の子。行く当ても、この先どうするかも不明の様子です。

彼らを中心に話は回ります。

刑務所から出てきたばかりの男マーク、老舗だが潰れかけているロシア料理店を任されている。

その友人の弁護士、人が良く能力もあるが人間関係をうまく築けず悩んで、悩み相談のサークルに入っている。

そこのオーナーらしき男、特に何もしない。

働きすぎの看護婦、彼女は病院内だけでなく外でも、貧しい人々を支援する教会のボランティア組織、心に悩みを抱えている人々のサークルで活動している。

普通の企業では「能力がない」と烙印を押された若者。

彼らが絡み合った群像劇のように見えますがそうでもありません。クララとマークがラストで恋仲になって、めでたしめでたしですが、他はそんなに深い関係ではありません。

彼らが、少しずつ関係性を持ち、つながりを持っていて、別々にクララ達を少し助ける感じです。

   そんな希薄な繋がりを持つ人間関係が、なぜか奇妙なほど心地よく感じました。隙だらけの映画、隙だらけの人間関係ですが、それがいいのです。

 

 

西神ニュータウン9条の会HP2021年1月号

標記のHPが更新されましたので紹介します。

西神9条の会 (www.ne.jp)

今月は、全部で11本の文章が掲載されています。

「平和を願って」のコーナーでは5本でいつにもまして充実していました。タイトルと中身をちょっと言いますと「戦争が廊下の奥に立っていた」は、日本の政治社会の状況を、勤労者の所得、福祉医療の問題、政府行政の在り方、学問・文化に分けて簡潔に批判されています。「『学問の自由』について考える-6名の学術会議会員任命に関係して」は、大学の研究には国の政策と密接に関係している、と指摘されています。あと「戦争体験の継承を」「謝るということ(3)」「科学は軍事に協力を!ホンネが出た」も現状の課題を書かれています。

「読んだ見た聞いた」は芝居と映画です。

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芝居は「神戸の舞台に立った俳優たち(15)その愛三部作 俳優加藤剛 人間加藤剛」で俳優座の日本を代表する2枚目俳優であった加藤剛さんについて、その代表作、わが愛3部作「波-わが愛」「門-わが愛」「心-わが愛」にそって紹介されています。

映画は私が「サイレント・ト-キョ-」を書きました。「罪の声」と同日に見たので、どちらにしようか考えましたが、このHPにふさわしいと思いこちらにしました。

クリスマス・イブの日、東京に繁華街に爆弾テロが仕掛けられるという映画です。

「マリさんのパリ通信(23)コロナ下の年末年始」では、厳しいパリの様子が書かれています。20時から6時まで外出禁止、ワクチン反対の人も多い、という現状が枯れています。

 

2021年新年あけましておめでとうございます

今年もよろしくお願いします。このブログは週1回以上の更新を目標にしていますので、今年も時々覗いてください。

年賀状は今年も約300通出しました。以下のとおりです。上が私の友人向け、下が親戚向けに出しています。

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 本も映画も、このブログに書いたもののうち良かったものを上げました。書いた日付を載せておきますから、関心があれば読んでください。

『ガザに地下鉄が走る日』11月8日『眼の誕生』6月7日『歪んだ波紋』12月16日

『i-新聞記者ドキュメント-』10月24日『その手に触れるまで』6月29日『海辺の映画館』9月12日

 『海辺の映画館-キネマの玉手箱』は、大林宣彦監督の遺作ですが、見たときはあまり評価しておらず、紹介もそっけないものでした。年末に一年振り返って、見た映画を思い起こすと、心に残っていました。

 彼の心の奥深くあった「戦争反対」という主題を心の赴くままに映画にしたもので、完成度は高くありません。ですが、そういうことを乗り越えているから、見た直後は評価しなかった私の心に映像が残っていると思います。

 そういうことはたまにあります。後から味わい深いものが出てくる映画、小説は本当にいいものです。